囁きの暴君は地下の牢獄で扇動し、“囁きの道宗”の手下を使ってその魔力を誇示し、再びゴラリオン全土を脅かそうと躍起になっていた。思いのままに使える致命的で新しい魔法――世界規模の破壊を引き起こせるほどのこれは、前代未聞の力を持つ――を持つ彼が自由を取り戻すのはほぼ不可避であり、ラストウォールの監視の目からさえ逃れられるほどに速やかであるように見える。最も英雄になるはずもない存在――“囁きの道宗”の最新の犠牲者が、アヴィスタンの唯一の希望となるかもしれない!
タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスの最初の冒険では、全てのPCがラストウォールの南西端にある小さな町、「ロスラーズ・コファー」からはじめることになっている。輝ける十字軍の英雄、エルヴィン・ロスラーにちなんで名付けられたこの街は、ベルクゼンのオークと辺境を共有しながらも800年以上存続し続けており、季節に従って近くを行き交ういくつかの部族と、平和的な交易を行っている。ラストウォールは、地域の境の確立を手助けしておりヴィジルで使用される亜麻の多くを栽培しているこの町を、小さな騎士団の駐屯地を配置し続けるだけの重要性を持っているものと考えている。この町の存在は挑戦的であるが、ロスラーズ・コファーが何百年にも亘りほぼ問題もなく存続してきたのはオークの暴力的な捻れ爪族が穏健派の他部族をこの地域から追い出し、辺境の農場を襲撃し始めるまでの話だった。こうした攻撃は最終的に捻れ爪族がar4707年にロスラーズ・コファーそのものを襲撃し、歴史的な建造物を燃やし、人口の1/4以上を虐殺し、残りの住人を散り散りにする程に過激化した。生存者のおよそ半数が季節が変わってから再建のために戻ってきたが、レッド・リーヴァーと呼ばれる縄張りを持つクリーチャーが、町から1マイル離れたサーレンレイの寺院に移ってきたのを発見したため、その教会を新たに設立された町そのものの中に移転せざるを得なくなってしまった。
ラストウォールはロスラーズ・コファーの再建に伴い、国境地帯の巡回に騎士を追加で配置した。これらの戦士たちは、捻れ爪族による新たな襲撃を何回も押し返し、捻れ爪族は最終的にその内なる不満をベルクゼンへと向けることとなった。しかし騎士の努力を持ってしても、レッド・リーヴァーをその新しい棲処から追い出すことはできなかった。それは近くの農場を略奪し、旅人を襲い続け、地元の住人はかつて教会が管理していた土地や果樹園、その他のものをただ避けるようになり、そうでなければ生活環境へと持ち去った。昨年、名高いパスファインダー協会のエージェントが寺院を調査するために到着し、大規模な戦いの末、ついにこの獣を退治した! このサーレンレイの教会はこのモンスターのいた10年の間に受けた損害を簡単に調査しただけで、今も町から活動を続けている。しかし、この突然の騒動をきっかけに、町の若者たちは冒険者やパスファインダーを夢見るようになっていった。
サーレンレイの寺院に加えて、ロスラーズ・コファーは街の墓地にある大きな墳墓、「ロスラーの墓」でも知られている。ここには、輝ける十字軍の英雄たちの遺骨が保管されている。アイオメデイとゴルムの信者が巡礼に訪れることもあり、この町は新しく来たものが硬貨を支払うことで、宿泊施設を提供してくれる。トゥロンデル川の周辺に位置するおかげで、この町は十字軍、使者、巡礼者、ラストウォールとニアマサスの間を行き交う商人などが往来する。
プレイヤー・キャラクターは、ロスラーズ・コファーの頑固な住人であるかもしれないし、国境を守るためにラストウォールから派遣された民兵かもしれないし、退去したサーレンレイ教会の関係者かもしれないし、地下墓地を訪れる巡礼者かもしれないし、上司が去った後に寺院を調査するパスファインダーかもしれないし、行商人かもしれないし、ヴィジルの役人かもしれない。少なくともキャラクターのうち1人は地元民――生まれてこの方ずっと住人か、捻れ爪以後の復興の一環としてこの地域に定住した者か――であることが望ましい。ロスラーズ・コファーやラストウォールの出身でないPCは、少なくとも囁きの暴君や囁きの道宗の遺産に強い関心を持ち、これらの凶悪な勢力が世界に与える被害を最小限に抑えたいと思っているに違いない。
本書では、世界の闇の勢力に対抗する砦だと自称するラストウォールで期待されることをプレイヤーに知ってもらうために、ラストウォールの簡単な案内を掲載している。ラストウォールと輝ける十字軍に関連する追加情報は、Pathfinder Campaign Setting:Inner Sea World GuideとPathfinder Campaign Setting:Cities of Golarionに掲載されている。
タイランツ・グラスプの全体的な主題はサバイバル・ホラーだ。プレイヤー・キャラクターは、特に最初の数回の冒険では、限られた資源の中で絶望的な状況に置かれていることに気付くことがよくある。タイランツ・グラスプのイベントが展開していく中で、恐ろしい悲劇が起こることが運命づけられている。状況によっては、プレイヤー・キャラクターは予想以上に早くロスラーズ・コファーから離れなければならなくなるだろう。そのため、ラストウォールやその先を旅する準備ができているキャラクターが、このアドヴェンチャー・パスには適している。
タイランツ・グラスプの全体的なコンセプトは、囁きの道宗の復活とその新兵器である大量破壊兵器であり、様々なキャラクターの琴線に触れるものであろうが、君はどのようにしてたった1つの構想を選ぶだろうか、そして何がこのキャンペーンの課題や雰囲気に最も適しているだろうか? この筋書きの大半の焦点にも拘らず、挑戦の多くは個人的にして直接的だ――囁きの道宗やタル=バフォンの他の手下たちが、私的に直接PCを脅かしており、彼らの陰謀を暴いて阻止する中で、PCは勇気と頑丈な盾以外には自らを守るものが何もない状態で古代の廃墟や荒廃した場所、秘密の拠点に入り込むことになるだろう。PCは軍隊や社会秩序ではなく、自分自身や仲間の冒険者達を頼りとしなければならない。君の想像力と、過去10年間のパスファインダーRPG製品の中で示されてきた、様々な選択肢に精通しているかどうかによって、より多くの可能性が存在する。タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスのキャラクターについての議論が必要なら、paizo.comのフォーラムにアクセスし、キャンペーンをプレイしている他の人達に質問をし、経験を共有しよう。
その属性が善であれ、悪であれ、純粋に自己中心的なものであれ、ほぼすべての人がタル=バフォンと使者の軍団の支配下ではかなりの自由と安全を失うことになる。そのため、キャラクターが囁きの暴君と囁きの道宗を阻止しなければならないということに同意できる限り、タイランツ・グラスプでは必ずしも道徳や思想に縛られることはない。ラストウォールはパラディンに支配された国家であり、秩序にして善とその周辺の秩序にして中立と中立にして善が最もありふれた属性だ。市民は可能な限り教育や地域社会、国家のために公益に向かって行動し、専門知識や防備、資産が必要なとき、必要な場所に与えられるインフラによる強力な支援から利益を得ている。ラストウォールの悪人でさえも名誉を重んじる傾向があり、混沌の側面よりは秩序にして悪に傾倒している。混沌属性のキャラクターは特に嫌われているわけではないが、この境の国の秩序ある社会で居場所を見つけるのは難しい。なんとか存在するものはロスラーズ・コファーや牙森の材木駐留地のような国境の集落に流れ着き、最終的には多くのものが南下してニアマサスに移住してしまう。悪のキャラクターを作成する前に、通常通り、GMに相談すること。この選択肢は、全てのグループに適切なものではない。
タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスの大部分は、断固たる悪と戦い、圧倒的な破壊に直面しながらも生き残ることを目的としている。多くの冒険では、すでに恐ろしいことが起きているという困難な状況が提示されていて、PCは生存者を慰めたり、犠牲者を癒やしたりと、その余波の中で自分たちにできることをしなければならない。全てのキャラクター・クラスがこのアドヴェンチャー・パスに適しているが、ある程度安定したインフラに依存しているキャラクター、特に都市部に特化したクラスやアーキタイプのキャラクターは、自分の技術を十分に活用するのが難しいかもしれない。また、このアドヴェンチャー・パスはかなりの移動を必要とするため、効率的な案内や道中での移動、高速移動ができる能力を持ったキャラクターは、その技術の実用的な応用を見つけることができるだろう。
ラストウォールにはパラディンが多く存在することを考えると、クレリックやウォープリーストと同様にパラディンも当然の選択肢となり得るが、そのようなキャラクターのプレイヤーは、このアドヴェンチャー・パスの中の重要な拡大する活動の多くにはこの世界の改善の為にまだマシな悪と共に活動することが要求されるがため、開かれた心で行動すべきである。パラディンの行動規範でさえ、仲間の闇の行いを抑制できる限りに於いて秩序にして善のキャラクターがより大きな善の為に悪の相棒と肩を並べて行動することを認めている事は指摘しておく価値はある。
タイランツ・グラスプに適した他のクラスには、ファイター、レンジャー、ローグ、ウィザードが挙げられる。近くにある牙森の住人であるドルイドもこの地域の特徴ではあるが、ドルイドのプレイヤーは、このキャンペーンの間に訪れる荒涼とした風景には限界を感じるかもしれない。アンデッドの敵が多いため、バード(そして心術や幻術に専門家したウィザード)はその攻撃的な魔法や歌の目標が少ないことに気付くかもしれない。しかし仲間を恐怖からより耐えやすくする能力は高く評価されるだろう。ガンスリンガーやその他の非常に特殊な装備を必要とするクラスは、特に最初の数回の冒険では、買い物をする場所を見つけるのに苦労するかもしれない。アイオメデイの修道院が国の中にいくつか存在し、武術や肉体完成を高めて悟りを開く事を奨励しているが、彼らはティエン・シア様式ではなくアヴィスタン様式の武術に注力している。基本クラスの中でも、キャヴァリアーとインクィジターはラストウォールで最も代表的なクラスだが、サモナーやウィッチも、その能力が破壊や支配に向かわない限り、平穏な生活を送ることができる。ブローラー、ハンター、インヴェスティゲーター、スレイヤーもこの国の英雄に含まれており、初代の輝ける十字軍のあとには、未だに続いている霊を扱うスピリチュアリストやミーディアムもいる。混沌によったクラス――特にバーバリアンやスカルド――は聞かれないというわけではないが、ラストウォールの際立って名誉を重んじる文化の中で強い存在感があるというわけではない。
有用なアーキタイプは以下の通り。
これらの選択肢に加え、Pathfinder RPG Occult Adventuresで導入されたシュラウド騎士団は、アンデッドの脅威を追い返そうとすることを好む。
ほとんどのソーサラーやブラッドレイジャーはタイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスに適しているが、不浄なる次元界から与えられた血脈を持つなら、疑わしい目で見られることが多いだろう。ラストウォールのパラディン達は親の罪を子供が負う必要はないと理性的に理解している。そのため、そのようなキャラクターであっても法を守る限り、その生活に関して恐れることはなにもない。しかし、あからさまに不浄な出自や魔法に関する出自は、やはり警戒されて精査されることになる。このキャンペーンに特に適しているのは運命の子、植物APG、天上の者、忌まわしき者UM、秘術、不死の者である。このアドヴェンチャー・パスのテーマに強いつながりがあるオラクルの神秘やシャーマンの霊は戦、生命、天界、骨である。タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスに適した守護者は祖霊UM、死UM、耐久、治癒UM、光UM、前兆UM、霊UM、力、復讐UM、判断である。
これらの選択肢は指針に過ぎない。プレイヤーはこれらの選択肢からしか選択できない、などと義務を感じる必要はない。ほとんどの血脈、神秘、霊、守護者は、囁きの道宗に対する戦いに自分の居場所を見出すことができるだろう。
その特異な性質から、最初の冒険では、プレイヤー・キャラクターは従者、動物の相棒、乗騎、使い魔などから分離される。冒険のある期間の間クラス特徴を失うことは困難を伴うものだろうが、それは一時的なものであり、PCは2つ目の冒険の開始時に仲間を取り戻せるようになる。プレイヤーがこの一時的な制限を受け入れることができれば、ラストウォールには以下の使い魔が存在し、使い魔として理想的な選択をすることができる:アウル、ウィーゼル、キャット、ゴートB3、スカンクB3、squirrel(Animal Archive)、トード、ハウス・センチピードUM、バット、ピッグB3、フォックスB3、ヘッジホッグUM、ホーク、ラクーンB3、ラット、rabbit(Pathfinder Player Companion:Animal Archive)、レイヴン。《上級使い魔》を探しているキャラクターであれば、テーマに合い、タイランツ・グラスプに最も適切なものを以下から見つけられるだろう:アービター・イネヴァタブルB2、カーバンクルB3、カッシシアン・エンジェルB2、シルヴァンシー・アガシオンB2、スードゥドラゴン、ノソイ・サイコポンプB4、ハービンジャー・アルコンB3。
以下の動物はラストウォールのどこでも見られるもので、キャラクターの既にいる動物の相棒が死亡した場合にもすぐに交換できるため、相棒や乗騎に適している。アックス・ビークB3、ウルフ、オーロックス、サイラシンB3、スモール・キャット(マウンテン・ライオンもしくはリンクス)、ジャイアント・ヴァルチャーB3、ジャイアント・ウィーゼルB4、ジャイアント・レイヴンB6、スタッグ B4、ダイア・ラット、ディグモールB5、ドッグ、バード(イーグル、ファルコン、ホーク)、バジャー、ベア、ボア、ホース、ラムB2。
タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスでプレイヤーが直面するであろう敵の大部分は、囁きの暴君の軍隊の大部分を占めるアンデッドである。また、PCはタル=バフォンに仕える、生きている敵とも多く出会うことになるだろう。そこにはエルフと人間が挙げられる。その他のよくある脅威には、異形、植物、そして新しい人型生物の副種別(モルティック)がある。このキャンペーンは多様な地形を包含するが、死者とその秘密が埋もれている地下のダンジョンが最も舞台となる。その他にありふれた景色としては、都市や森林がある。また、ウースタラヴやラストウォールのなだらかな丘陵地や険しい山で過ごす時間もある。
キャンペーンの始まりは、10年前のオークの襲撃から着実に復興しつつある国境の町を舞台にしている。そのため、ほとんどのプレイヤー・キャラクターはもしロスラーズ・コファーの出身ではないとしても、ラストウォールの出身者である可能性が高い。彼らは聖職者、技術者、農民、癒し手、石工、街の見張り、織工などの職業に就いている。地元の産業は主に亜麻の生産、牧羊、復興、亜麻と羊毛での敷布、亜麻仁油とラノリンの販売などが中心となる。ここ数年、ベルクゼンとの国境が静かになっているにも拘らず、ヴィジルはロスラーズ・コファーに小さな防衛軍を派遣している。ロスラーズ・コファーはニアマサスとウースタラヴとの商業を引き寄せ、時折ヴァリシア人の商隊やラズミールの難民も訪れる。復興のための努力は多くの仕事を求めている人を惹きつけ、地元政府が避難民に保証と支援を提供しているのを見て、その寛大さを利用しようと決めた日和見主義者もいる。
輝ける十字軍の軍勢の大部分は、元々タルドールによって提供されていた。そのため、タルドールで一般的な言語がこの地域の言語となっている。戦争と復興の両方に多くのクラゴダンのドワーフが貢献しており、人間の間でもドワーフ語もかなりありふれた言語である。同様に、ラストウォールはウースタラヴに近いことから、農耕民の多くは少なくとも多少はヴァリシア語を話し、特に呪いや保護の言葉をつぶやくために使用している。タル=バフォンの支配以前の古い遺跡では、ハリト語とオーク語が今でも見られるが、囁く暴君の支配下ではネクリル語が選ばれており、これは囁きの道宗における共通語となっている。また、アイオメデイの教会では、重要な伝文や祈りが天上語で行われることが多い。
上級クラスを目指すことに興味のあるキャラクターには多くの選択肢がある。特に、アイオメデイやゴルムといった神々への信仰と献身を強調したものが適切である。以下の指針は、タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスに最も適したテーマを備えている。
Evangelist(Pathfinder Campaign Setting:Inner Sea Gods)
Exalted(Inner Sea Gods)
Knight of Ozem(Pathfinder Campaign Setting:Paths of Prestige)
Prophet of Kalistrade(Paths of Prestige)
Sentinel(Inner Sea Gods)
ラストウォールの人口には人間が圧倒的に多いものの、輝ける十字軍は内海地域から守備兵を連れてきたため、アヴィスタンのほぼすべての民族がこの地域の住民に含まれている。ラストウォールの人口の大半にはタルドール人の血が流れているが、タルドール人、シェリアックス人、ヴァリシア人、ケーリド人、ガルーンド人の血も受け継いでおり、タルドールから独立して以降はケレッシュ人やティエン人との交易が盛んとなったため、これらの血筋も一般的になってきた。
ドワーフやハーフリングは、特に軍人の間ではよく見かける存在だ。ノームやエルフの来訪は――主に牙森からになるが――聞かれないわけではないが、ラストウォールで最も多い人間以外の種族はハーフオークだ。この国のハーフオークの多くは国境の町の人間と遊牧民のオーク部族との間での何世代にも渡る緊張感はあるが平和的な接触の結実であるか、もしくは暗黒時代以来マインドスピン山脈に沿って居住してきた、時折人間あるいはオークをその地域の住民として迎え入れているハーフオークの自給自足の村々の結実でさえある。これらの多様な起源にも拘らず、人間の間でのオークに対する否定的な認識のために、ほとんどのハーフオークは最低でも何らかの烙印を負っているものと見られる。
珍しい種族であるが、アアシマールとダンピールはラストウォールを本拠地としており、どちらも不信感を持って扱われている――ダンピールはその不死とのつながりのために、アアシマールはその異世界の起源のために。チェンジリング、ダスクウォーカー、スキンウォーカー――その多くはウースタラヴからの移住者だ――もまた少数見られるが、一般には変わった旅人以上の存在として注目を受けるほどではない。
信仰はラストウォールの文化の礎となっている。この国のルーツは圧倒的な悪に対する宗教的な聖戦であるため、国民のほぼ全員が、日常的に一つ以上の神に敬意を表す。輝ける十字軍の74年間、そして復興期に至るまでの長い間、神々の光を呼び起こすことができるか、あるいは信仰によって勇気と忍耐力を見出すことができるかどうかが生存の鍵を握ってきた。ラストウォールの実態は神権国家ではないが、どの監視伯も一つ以上のどこかの教会と強い結びつきを持っている。
十字軍の神であり、アラズニとエイローデンの弟子でもあるアイオメデイは、ラストウォールで最も有名な神格であり、それに続くのが戦争の神ゴルムである。いずれもラストウォールの十字軍とベルクゼンのオークの仇敵の両方に人気がある。ほとんどの兵士は両方を崇拝している。アイオメデイが特に好まれており、政府の分派を除けばアイオメデイの教会が全てだ。ラストウォールでよく見られるその他の神格には、初期の十字軍が広めたタルドールの神々(アバダル、カイデン・カイリーエン、シェリン、ノルゴーバー)が挙げられる。サーレンレイ信徒はさほど一般的ではないが、輝ける十字軍の特に衛生兵の間では強力な基盤となっていた。デズナはヴァリシア人の入植者の間で重要視されており、住民の中では一般的な信仰である。多くのドワーフはトローグをはじめとするドワーフのパンテオンに敬意を表している。
多くの至高天の王の小さな教団もあり、特に復讐の天使ラガシエル(最も暴力的なパラディンの多くが従っている)やアンドレッタ(その保護を求める集落や、癒やしや平和を求める退役軍人に広まっている)が受け入れられている。
タイランツ・グラスプのパーティは多能な技能から多くの恩恵を受けることができる。様々な〈知識〉技能は、パズルを説いたり、脅威を特定したりする上で価値あるものとなるだろう。〈知識:宗教〉と〈知識:歴史〉は最も有用であり、〈知識:次元界〉、〈知識:神秘学〉、〈知識:ダンジョン探検〉、〈知識:地理〉は全て独自の活用方法がある。冒険では、〈軽業〉、〈騎乗〉、〈登攀〉といった肉体技能を使用することができる。〈知覚〉はほとんどの冒険者に役に立つもので、〈隠密〉、〈呪文学〉、〈生存〉、〈装置無力化〉などの冒険の定番技能は全て輝く瞬間がある。
タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスでは、様々な敵との戦闘が想定されている。そのため、戦闘技能ツリーから多くの利益を得ることができるだろう。アンデッドが一般的な要素なので、《強打》や《薙ぎ払い》のような回復力のある相手を素早く切り裂ける特技や、頑健セーヴや意志セーヴを増強する特技が役に立つだろう。《呪文越境化》(APG)の呪文修正特技は、呪文の使い手がより効果的に非実体のアンデッドと戦えるようにしてくれる。また、クレリックやパラディンがエネルギー放出能力を強化する特技も同様に役に立つだろう。
以下に示すキャンペーン特徴に加えて、Advanced Player’s Guideに掲載されるいくつかの特徴は、信仰心の強いラストウォールの住民の間でよく見られ、適切なものだ:〔生まれながらの印〕、〔回復力〕、〔神の戦士〕、〔神聖なる導管〕、〔寺院の子〕、〔戦闘熟練者〕、〔対応者〕、〔退役軍人〕、〔不屈の信仰〕、〔亡者殺し〕、〔勇敢〕、〔鎧の熟練者〕。
タイランツ・グラスプ・アドヴェンチャー・パスは、プレイヤーをラストウォールからウースタラヴに向かわせ、さらに遠くの寄港地まで至らせる。キャンペーンは国境の町ロスラーズ・コファーから始まる。背景に拘らず、全てのキャラクターはアヴィスタンを征服しようとする不死者と悪の台頭を阻止することに利害関係を持っていなければならない。
プレイヤー・キャラクターはそれぞれ、キャラクター作成時に修得可能な特徴2つのうち、1つを以下のキャンペーン特徴から選択しなければならない。
〔職人〕/The Artisan:求めるものを正しく得るのに重要なのは精密さだ。君は家や花瓶から道路や帝国に至るまで、あらゆる物を作り上げるのに細心の注意を払っている。君の細部へのこだわりは、その仕事が会計士、建築家、技術者、薬草商であるかに拘らず、10年前にオークの襲撃からロスラーズ・コファーを復興する際に不可欠であることが証明されている。君の細部へのこだわりは、〈鑑定〉と〈治療〉判定に+1の特徴ボーナスを与え、これらの技能のいずれか1つはクラス技能となる。1日1回、君は通常なら1回の標準アクションの発動時間を持つ呪文を1全ラウンドかけて発動することができる。そうするなら、その呪文の有効術者レベルを1増加させる。この能力は、発動時間が1回の標準アクションでない呪文には影響を与えない。
〔法をもたらすもの〕/The Lawbringer:辺境は危険と無秩序の土地であり、人々がこれらに勇敢に立ち向かうことは歓迎されている。しかし、そのような危険を望まない人々に対しても痛みをもたらすことがあまりにも多い。君は街の警備兵やヴィジルの支援を受けた兵士の分遣隊として仕えているかもしれないし、他の人が耐えられないときに耐える、ただの心配性の農民かもしれない。その目的は、運命の残酷な気まぐれに対する防波堤として、それを必要とする人のために立ち上がることだ。君は[恐怖]に対するセーヴィング・スローに+2の特徴ボーナスを得る。君が勇気のオーラのクラス特徴を持つ場合、そのオーラによるボーナスは1増加する。君の勇気は感動的なほどだ。君が気絶したり殺されたりした場合、30フィート以内にいる味方は君の守備に奮い立たされて、即座に君のレベル+【魅力】修正値に等しい一時的ヒット・ポイントを獲得する。この一時的ヒット・ポイントは1分間持続する。
〔楽観主義者〕/The Optimist:物事が良くなっているという君の言葉を人々は鵜呑みにする必要はない。10年以上前のオークの占領からの街の復興は完全に終わっており、町の外にあるサーレンレイ神殿のモンスターはついに倒された。君のどうしようもない楽観主義は、ロスラーズ・コファーの住人の多くが直面している厳しい生活から逃げているように見えるが、君はその前向きな態度が共同体を活性化させていると信じている。君は[精神作用]効果に対するセーヴィング・スローに+1の特徴ボーナスを得る。加えて、君の楽観主義は伝染する。1日に【魅力】修正値(最低1)に等しい回数まで、即行アクションとして、君はこのボーナスを10フィート以内にいる仲間1人に与えることができる。このボーナスは1分間持続する。
〔異邦人〕/The Outsider:君には居場所がないが、今のところはこの辺境で十分快適に過ごしている。都会の生活を楽しむには不謹慎すぎるのか、ラストウォールの仲間意識がありふれた文化に染まるには利己的すぎるのか、あるいはその両方かもしれない。君はあまり注目されずに移動するのに慣れており、〈隠密〉と〈生存〉の判定に+1の特徴ボーナスを得る。これらの技能のいずれか1つはクラス技能となる。君は援護アクションから半分の利益(+1)しか得られないが、君は最初に正しく仕事にすることに慣れているので、他のキャラクターに援護アクションを行う際、与えるボーナスを1だけ増やすことができる。
〔悲観主義者〕/The Pessimist:君は最悪の事態を予想しており、失望したことは殆どない。君の厳しい見通しは、捻れ爪族によってロスラーズ・コファーが破壊されたことや、近くのサーレンレイの寺院から信者が追放されたこと、あるいは個人的な不幸が原因かもしれない。君はその見方のために、ラストウォールの人の中でも目立つ存在だ。最悪の結果が起きると常に信じている君は、意志セーヴィング・スローに+1の特徴ボーナスを得る。1日1回、フリー・アクションとして、君は30フィート以内にいる味方1人に、失敗したばかりのセーヴィング・スローを再ロールさせることができる。
〔奪還者〕/The Reclaimer:君は12年前のロスラーズ・コファーの破壊で大切なものを失った。家、遺産、おそらく家族さえも失ったが、魂は痛みから逃げるのではなく、痛みから癒やされるべきだ、という理由で戻ってきた。自分の人生を立て直し、その傷が他人の足を引っ張ることがなくなるよう、君は政治家、慈善活動者、癒し手、兵士として奉仕したり、守ったりしようとしている。しかし同じように失われたものが、君を無慈悲な怒りで満たしている。君の目は警戒心が強く、〈知覚〉判定に+1の特徴ボーナスを得る。加えて、君は直前のラウンド中に味方にヒット・ポイントダメージを与えた相手に対して、攻撃ロールとダメージ・ロールに+1の特徴ボーナスを得る。
〔詮索好き〕/The Snoop:君はロスラーズ・コファーにいる全ての人のことを多少知っている。それは君の職業によるものかもしれない。何にせよ、君は他人のことを思い出し、心を読む才能を持っている。君は〈知識:地域〉と〈知識:歴史〉の判定に+1の特徴ボーナスを得、これらはいずれもクラス技能となる。1日1回、少なくとも24時間前から知っているクリーチャーに対して〈真意看破〉もしくは〈はったり〉判定を行う際、君は1回再ロールしてより良い結果を選択できる。
〔御言葉〕/The Word:国中に信仰が溢れかえっている中では、自分のメッセージがかき消されてしまうのではないかと心配になることがある。しかしそれでもなお重要なことだ。ロスラーズ・コファーの住民はかつて慰めと慈しみを必要としていたが、君の努力のおかげでその魂を十分に癒すことができたため、君の仕事は不要になったのではないか、と君は心配している。君は長時間労働に慣れており、頑健セーヴィング・スローに+1の特徴ボーナスを得る。君の信仰心は活力に満ちており、1日1回、君はキャラクター・レベルの半分(最低1)に等しいパラディンとして、癒しの手を使用できる。君が別のクラスから癒しの手の能力を得た場合、君は1日追加で1回、癒しの手を使用できるようになる。
ラストウォールはなだらかな草原、未開の森、古代の戦いの痕跡が残る土地だ。かつてはオークの砦とケーリド人の都市国家があり、タルドールの補給基地が点在していたが、AR3200年以降は囁きの暴君の支配下に置かれるようになった。オークとケーリド人の多くは圧政を受け奴隷にされた。反乱で不幸にも倒れたものは、骨が粉微塵に砕けるまで無心に奉仕するはめになった。タル=バフォンの軍勢は都市全体や記念碑を破壊し、今やダンジョンや一時的な墓といった景色が点在する埋もれた基盤だけを残した。500年後にタルドールが囁きの暴君に対抗して人員を動員したときには、何世代にも亘る闇と労苦が風景を荒廃させ、絶望的な状態になっていた。戦争はこの地に新たな傷を残した。囁きの暴君を称えるために建てられた砦や都市は敷石まで取り壊され、魔法使いの王に対抗する新たな要塞の建材として使用された。大規模な戦いは、風景に粉々になった骨と曲がった鋼鉄を飽和させ、多くの土地は未だ悪臭を放ち、作物を育てることもできないでいる。1000年が経過した今もなお、恐ろしい魔法と霊が多くの古代の戦場に取り付いている。
その恐怖にも拘らず、ラストウォールの一部は人間の手で守られており、美しく豊かな土地だ。エンカーサン湖の近くにあるため降水量が多く、夏は涼しいが冬は雪が多く厳しい。生育期が十分に長く、様々な作物を育てることができる。北部の牙森と飢餓山脈の麓の丘陵地帯によって、ラストウォールは事実上2つに分かれている。ラストウォール東部は遥かに都市化が進み開墾されており、広大な農場や牧場が牛や有名な馬を、そして交易都市ヴェルミス――古のウースタラヴ港にしてこの国の最大都市――を支えている。ラストウォール西部は手つかずの状態で、敵の多い状況に――この国の首都ヴィジルは半ばこの未開の地にあるというのは皮肉な話だが――あり、ベルクゼンのオークからの、時折死霊術のエネルギーの復活からの、そして大部分が現代の人の手の触れられていない未踏の広大な土地と森からの、襲撃を頻繁に受けている。ロスラーズ・コファー――ラストウォール西部の最南端の町――は、ほぼトゥロンデル川の恵みだけで存在しており、100マイル北にある要塞との間には、良く警備されている石造りの道と僅かな狩猟小屋以外には近代的な建築物はほとんど存在しない。このように孤立しているにも拘らず、ロスラーズ・コファーの人々は自分たちがラストウォールの住人だと思っており、国のためにできることをする。
ラストウォールの人々は心が強く、忠実な軍隊の伝統を持ち、地域社会を重視し、率直で勤勉な傾向がある。彼らが生き残るためには、地域社会の一人ひとりが自分のできる限りの仕事をするのだと信頼していることが重要で、全ての住民はすべての仕事に全力を尽くさなければ次のオークの襲撃や厳しい冬に自分の地域社会が埋没する可能性があるのだと理解している。2つの敵対的な存在に挟まれている住民は、週に何度も寺院の礼拝に参加するほどの深い信仰心を持っている。すべてのことがそうであるように、実用性を第一に捉え、やるべき仕事がある場合は礼拝を後回しにする。ほとんどの住民は春に植樹を行い、夏には武具を用いた訓練を行い、秋には最初に厳しい凍結が訪れる前に収穫を行う。長く寒い冬は休息のときであり、オークが冬の中で軍事行動を行うことはまずない。気温は氷点下で地面は固くなり、休むことなき死体もさまようことが難しい。祭事や結婚は冬の間に行われることが多いものの、その大部分は小規模な地元のイベントだ。冬の間、ラストウォールの道は熟練した旅行者にとっても苦痛になるものだからである。