幻想文学には英雄や悪漢になることには興味はないが素晴らしい力を持っているキャラクターたちの例がたくさんいる。賢者は物事があるがままに進んでいくのを見ることに満足し、クレリックは神々に特別な力を吹き込まれ、薬草師は特製の調合薬の知識を持つ。全ての者は自分だけの他にない能力と洞察を持ち、そのようなキャラクターが冒険者たちに好意を持つようになるならば、その特別な影響力と能力を使ってキャンペーン全体の流れを変えてしまうかもしれない。個々のNPCの独特の技能と力を表すために、またキャンペーン世界のキャラクターとの交流によるルールによって関連付けられた利益をPCたちに与えるために、GMはある重要なNPCが好意を持ったPCたちに与える恩恵ルールを使うことができる。
要するに、恩恵とはあるNPCがPCたちを助けるための定量化された非金銭的な方法である。これは物品やサービスの値引き、特定の技能判定への1回限りのボーナス、あるいはそのキャラクターだけが提供できる魔法的な利益のような形かもしれない。恩恵の本質はデータ的な要素よりもキャンペーン世界におけるNPCの役割に依拠するものである。社会的地位は必ずしもクラス・レベルや特定のルールに関連するものではないように、恩恵はGMの論理感覚とキャンペーンのリアリティを主として基とする。1レベルのアリストクラートに過ぎない若い王子は、11レベル・コモナーであるパン屋よりも、パトロン、航海への出資、法令の布告などはるかに有利な恩恵を与えられるかもしれない。
恩恵はでたらめに与えられるものではなく、PCは出会う全てのNPCから役に立つ援助を受けられると期待するべきではない。友好的な態度のNPCだけがこのような利益を与え、通常は十分な期間信用を置くようになったPCや、重要な個人的な奉仕を行ったPCに対してのみ与えられる。このような関係では、NPCはパーティ全体よりも一個人に好意を与えるようになり、 パーティーの構成員の1人に恩恵を与える一方、それほど好意をもたれていない構成員は見過ごされることもありうる。PCは全てのNPCが恩恵を与えるものと期待するべきではない。ある者は提供できる特別なものを何も持っていないかもしれないし、差し出せるものを多く持つほど重要人物ではないのかもしれない。[精神作用]効果の魔法を用いてキャラクターから恩恵を引き出そうとする者の成功はGMに任されている。日常的な恩恵の効果は推測しやすいが、より特殊な物はNPCしか知らないかもしれない。その効果に関わらず、PCに恩恵を与えることを直接コントロールさせるべきではない。PCは自分が与えることができる恩恵を自分で得ることはなく、最も親しい仲間に対してもその意思に反して利益を与えるように強要はできない。
恩恵に伴うものはさまざまで、それを提供するNPCだけではなく、GMの趣向やシナリオ上の必要によって変わる。その核心となるのは恩恵は、GMがNPCとの絆を結んだ褒賞としてルールに関連付けられたちょっとした利益をPCに与える簡便な方法であることを意図している。恩恵はしばしば金銭的な価値を持つことはあるが、決して金銭的な物であることは無く、友人同士の好意のように感じられるべきであり、キャラクターやNPCの人生を変えてしまうようなものであるべきではない。時としてルールの既存の要素――装備品の値引き、特定の状況における技能判定へのボーナスなど――が含まれることもあるが、このような事が起きるのは少数であるべきである。恩恵は3つの形態を取る傾向がある。協力恩恵、技能恩恵、特殊恩恵である。
協力恩恵/Favor:いかなるクラスまたは社会階層のいかなるキャラクターでも友人を助けようとすることはできる。協力恩恵はこのような利益を表す。店員は商品を10%値引きし、貴族はその影響力を使って領主との面会のお膳立てをし、引退した冒険者は高品質のロングボウを貸してくれる。これら全てが協力恩恵となる。
技能恩恵/Skill:あるNPCは友人に自らの経験を分け与え、あるいは自らの影響力を他者に委ねることができる。技能恩恵はNPCが好意を持ったPCに伝えることができる技能判定へのささやかなボーナスである。ガイドラインとして、技能ボーナスは通常非常に限定された状況における1種類の技能に+2ボーナスを与える(1つの技能を使用する、全ての判定についてではない)。あるいは特定の技能判定に1回限り+4のボーナスを与える。たとえば、有名な商人がその印章指輪をキャラクターに与え、彼の本拠地の都市の市場での他の商人との〈交渉〉判定に+2のボーナスを与えることができる。失われた都市の伝承を研究する学者はPCに講義を行い、その廃墟に関する〈知識:歴史〉判定に+2のボーナスを与えることができる。衛兵は友好的なPCに頼まれて地域のスリと対面し、その者に対して行う〈威圧〉判定に1回限り+4のボーナスを与えることができる。
特殊恩恵/Unique:全ての恩恵の中で最も稀な特殊恩恵は、あるNPCが与えることができる、そのキャラクターに特有で、その者のクラス能力の範囲外にある特殊な力である。特殊恩恵はキャラクターのクラス能力の一部とするにはささやかに過ぎ、あるストーリーに特有なためGMによる調整を必要とするような特殊能力である。ゴーストは彼女の夫である邪悪な幻術士の幻術を見通す力をPCに与える。光の神のクレリックは仲間の武器に近くの地下墓地に出没する影のようなクリーチャーに対する攻撃に+1の追加ダメージを与える祝福を与えることができる。アルケミストは飲用者に24時間ブラウン・モールドに対する完全耐性を与えるポーションを調合することができる。これら全てが特殊恩恵の例である。このような恩恵は探検のため最も柔軟性に富み、幅広い可能性を持っているため、GMは特殊恩恵を1回だけ有効とするか、1回の冒険にのみ関連を持つものとなるように限定するべきである。
以下はPathfinder RPG Core Rulebook収録の各NPCクラスに属する者が提供することができる恩恵のリストである。NPCの可能性のある状況と可能な恩恵を全てをカバーすることは不可能であるため、このセクションの残りの部分は自分自身の恩恵を作り出すためのガイドラインか、あるシナリオのNPCに付与する恩恵を選択するためのリストと考えるべきである。より特殊な例を求めているGMは Chapter 9 を参照すること。そこのNPCはそのようなキャラクターによって与えられるであろう恩恵の例を含んでいる。ここの恩恵リストは特定のNPCクラスのキャラクターによって与えられるものの一部について述べているが、いかなるクラスのいかなるNPCも恩恵を与えることができる。
信仰魔法の使い手はしばしば単に癒し手とみなされるが、その知恵と讃えられる地位によりはるかに多くの物を提供することができる。
協力:低位の聖職者への紹介の手紙。PCたちをその望むままに助けよと命じる(1レベルのアデプトの雇い人が3日間助けてくれる)。
技能:地域の教会と接触するための好意的な紹介により、1人のPCにその特定の教会の構成員に影響を及ぼすために行う〈交渉〉判定に+2のボーナスを与える。
技能:神秘的な錬金術の技術に精通しているため、1人のPCが1つの錬金術アイテムを作る為の1回の〈製作:錬金術〉判定に+4のボーナスを与える。
特殊:汚穢熱を即座に治癒する特別なポーションを4本作成することができる。
特殊:PCを部族の精霊獣と交信させ、地域の特定の種類の動物とのスピーク・ウィズ・アニマルズを1日に1回使用することができるようにする。
アリストクラートは村の地主から皇帝までさまざまだが、ほとんどの者は財産と地位を有し共同体に大きな影響力を与えることができる。
協力:邸宅でのパーティ、王室の祝祭、公的な祝賀会など貴族会での催し物への招待状。
技能:地域の儀礼について1日がかりの指導を行い、都市や地域についての〈知識:貴族〉判定に+2のボーナスを与える。
技能:王宮に滞在中のキャラクターの世話を焼き、PCにこの滞在中の王宮の人間との交流に1回の+4の〈真意看破〉判定を行うことができるようにする。
特殊:1人のPCに特定の地域での権力との接触に役立つささやかで領地のない称号を与える。
通常は有名でも富裕でもないが、コモナーはさまざまな技能を持ち、好意に報いるために創造的な方法を用いることができる。
協力:PCに敬意を表して部屋を提供し手の込んだご馳走を用意する。
協力:1種類の〈製作〉判定によって自らの手で作った高品質の非魔法的アイテムを50%割引で提供する。
技能:1ヶ月の間、自分の有する最高の〈製作〉または〈職能〉技能をPCのために無償で使用する(おそらく乗り物や船の乗員や希少な植物の世話、動物の訓練)。
技能:地域の民間療法を教え、病気に〈治療〉を使用する場合PCに+2のボーナスを与える。
特殊:地域の荒野を突っ切って自分だけが知っている秘密の場所へ行くための地図を作るか案内する。
熟練の職人、プロフェッショナル、学識ある社会の構成員は幅広い特別な才能とPCに有用な世に知られていない情報を持つ。
協力:1人のPCに材料を提供し、非魔法的アイテムを製作するための価格を半分に削減する。
協力:非魔法的アイテムを売るための商人や魔法のアイテムの買い手を捜すことができる。
技能:特によく整備された作業場の使用を許可し、1回の特定の〈製作〉または〈職能〉判定に+4のボーナスを与える。
技能:PCに商売のコツを教え、PCとそのエキスパートが共有する1回の〈製作〉または〈職能〉判定に永続的な+1のボーナスを与える。
特殊:地域のギルドの会員権を有し、広い地域で特定の種類の商品を10%割引する。
特殊:古代の鍵を開け、通過不可能な罠を迂回し、あるいは伝説的な機械の破損した部品を取り替えるための特別な道具を作る。
職業的ウォリアーは典型的には幅広い経験を積み、他の種類の戦闘職、彼らが仕える者、敵対する者と有用な交流を行っている。
協力:1人のPCに非魔法的な武器1つ、鎧1領、または冒険道具を贈る。
協力:高価な物を守るか、誰もそれを見つけられないような場所に隠す。
技能:地域の下水道を巡回した経験に関連し、1人のPCの都市の下水道に関する〈知識:ダンジョン探検〉判定に+2のボーナスを与える。
技能:地域の犯罪者を恐喝するための情報を提供し、地域の路上の暴漢に対する〈威圧〉判定に1回の+4判定を与える。