冒険者が探検する可能性がある不可解な場所の中でも、ダンジョンより致命的なものはない。地下迷宮、無数の致命的な罠、飢えたモンスター、そして金には替えられない財宝がキャラクターの持つあらゆる技能を試すのである。以降のルールは沈没船の残骸から広大な洞窟網まで、どのような種別のダンジョンであっても適用することができる。
ダンジョンには大別して4種があり、現在どんな状態にあるかによって分類される。多くのダンジョンは、この基本4種のバリエーションか、4種のうち複数を組み合わせたものである。古いダンジョンの中には、何度も別々の住人が住みつき、何度も別々の目的で使われたものがある。
廃墟と化した構造物:この場所にはかつては住人がいたのだが、もともとの建造者はこのダンジョンを(完全に、または一部)放棄し、別のクリーチャーがうろついて来て、入りこんだ。地下に住むクリーチャーの多くは、自分の巣穴にできそうな、放棄された地下構造物を探しているものだ。この種のダンジョンの場合、もともと罠があったとしても、すでに作動して無害になっている可能性がある。そのかわり、ワンダリング・ビースト(さまよう獣)はぞろぞろいるだろう。
住人のいる構造物:このダンジョンは今現在も使われている。ダンジョンには、(往々にして知性のある)クリーチャーが住み着いている。ただし、そのクリーチャーがダンジョンを作ったのと同じクリーチャーとは限らない。“住人のいる建造物”には家、要塞、寺院、操業中の鉱山、牢獄、軍の司令部などがある。この種のダンジョンでは、罠やワンダリング・ビーストの出てくる割合は低く、組織された守備要員の出てくる割合が高い。守備要員には、1ヶ所で番をしているものもあれば、見張りで歩き回っているものもあるだろう。罠やワンダリング・ビーストは、もし出てくるとしたら、ダンジョンの住人たちに制御されていることが多い。“住人のいる構造物”には住人にあった調度、装飾、物資がある。また、住人が中を移動するのに便利なようになっている。この種のダンジョンの住人たちは、情報を伝え合う手段を共有しており、また、ほとんどの場合は外部と自由に行き来できる。
ダンジョンの中には、一部は住人がおり、一部はカラだったり廃墟と化していたりするものもある。そんな場合、そこに住んでいるのはダンジョンのもともとの建造者ではなく、廃棄されたダンジョンの中に自分たちの基地、巣穴、砦を構えた知性あるクリーチャーの群れであることが多い。
大事なものの隠し場所:人は、守りたい大事なものを、地下に埋めて隠しておこうとすることがある。彼らが守ろうとするものは、莫大な財宝かもしれず、禁断のアーティファクトかもしれず、重要人物の死体かもしれない。いずれにせよ、こうした価値ある物品はダンジョンの中に安置され、周囲には障壁、罠、守護者が配置される。
“大事なものの隠し場所”型のダンジョンは、他の型と比べて、罠の出てくる公算は最も高く、ワンダリング・ビーストの出てくる公算は最も低い。この種のダンジョンは、見ばえより実用を優先して作られるのが普通だが、時には像や壁画といった装飾が施されていることもある。重要人物の墓などは特にそうである。
時として、墓や宝物庫が、生きた守護者が住むようなつくりに造られることもある。この方法の問題は、侵入を試みる相手がいない間も、守護者を生かしておかねばならないという点にある。こうしたクリーチャーに食料と水を与える方法としては、通常、魔法が一番の早道である。墓や宝物庫を作る際、ダンジョンを守るためにアンデッドや人造、つまり食料も休息も不要なクリーチャーを配しておくのはよくあることである。魔法の罠でモンスターをダンジョン内に招来して侵入者を攻撃させるようにしておく手もある。招来されたモンスターは用が済めば消えるからである。
天然の洞窟網:地下洞窟はあらゆる種類の地下モンスターの住みかとなる。自然の力で形成され、迷路のごときトンネル群によってつながった、これらの洞窟には、いかなるパターンも秩序も装飾もない。生成に知性ある者の力が一切関与していないので、この種のダンジョンでは、罠や扉の出てくる公算は最も低い。
洞窟にはあらゆる種類の菌類がはびこり、ときには巨大なキノコが大森林よろしく生育していることもある。地下の肉食生物が、菌類を食べる生き物を探して、この森をうろついている。ときには菌類がぶきみな燐光を放ち、“天然の洞窟網”の微弱な光源となっていることもある。一部のエリアではデイライトその他の魔法効果によって、緑の植物が育つのに十分な光があるかもしれない。
時として、“天然の洞窟網”が他の種類のダンジョンにつながっていることもある。人工のダンジョンを掘っていて、“天然の洞窟網”に行き当たったのだ。これにより、本来無関係な2つのダンジョンが合体し、奇妙な複合環境を生み出すこともある。“天然の洞窟網”と他の種類のダンジョンが合体すると、往々にして地下のクリーチャーが道を見つけて人工ダンジョンに入りこみ、住みつくようになる。
以降のルールは、ダンジョン内に見られる基本的な構成要素についてまとめている。
時として、石造りの壁――これは石を積み上げたもので、モルタルでつなぎ合わせてあることが多いが、常にそうであるとは限らない――が、ダンジョンを通路や部屋に分けていることがある。また、ダンジョンの壁は単に石を掘り進んだだけで、のみあとの残るざらざらしたものもある。また、自然にできた洞窟の、傷のないすべすべした石の場合もある。ダンジョンの壁を討ち壊したり打ち抜いたりするのは難しいが、壁に上るのは概してやさしい。
典型的な厚み |
|||||
---|---|---|---|---|---|
石造り |
1 フィート |
35 |
8 |
90HP |
20 |
質のいい石造り |
1 フィート |
35 |
8 |
90HP |
25 |
補強された石造り |
1 フィート |
45 |
8 |
180HP |
15 |
3 フィート |
50 |
8 |
540HP |
25 | |
5 フィート |
65 |
8 |
900HP |
15 | |
鉄 |
3 インチ |
30 |
10 |
90HP |
25 |
紙のように薄い |
1 |
― |
1HP |
30 | |
6 インチ |
20 |
5 |
60HP |
21 | |
― |
+20 |
×2 |
×23 |
― |
岩棚や張り出しには、へりに高さ2、3フィート程度の低い壁がついていることもある。こうした壁は、壁の向こう30フィート以内からの攻撃に対して遮蔽を提供する(ただし、防御側が攻撃側よりも壁に近い場合に限る)。
ダンジョン内の扉は単なる入口や出口ではない。扉自体が遭遇であることも多い。ダンジョンの扉には大別して3種がある。木製、石製、鉄製。
一般的な厚さ |
|||||
---|---|---|---|---|---|
たてつけの悪い場合 |
鍵がかかっている場合 | ||||
普通の木製の扉 |
1インチ |
5 |
10HP |
13 |
15 |
上質の木製の扉 |
1.5インチ |
5 |
15HP |
16 |
18 |
2インチ |
5 |
20HP |
23 |
25 | |
4インチ |
8 |
60HP |
28 |
28 | |
2インチ |
10 |
60HP |
28 |
28 | |
3インチ |
5 |
30HP |
25* |
25* | |
鉄製の落とし格子 |
2インチ |
10 |
60HP |
25* |
25* |
― |
15 |
30HP |
― |
― | |
― |
10 |
30HP |
― |
― |
扉を斬撃武器や殴打武器で文字通り粉砕する場合、表:扉にある硬度とヒット・ポイントを使用すること。扉を打ち壊す際の難易度を決めるには、以下をガイドラインとして用いること。
難易度11~15:力の強い人物なら1回で打ち破れるだろうし、平均的な人物でも1回で打ち破れるかもしれない扉。
難易度16~20:時間があればほとんど誰でも破ることができる扉。
難易度21~25:力の強い、あるいは非常に力の強い人物だけが打ち破れる可能性があり、そうした人物でもおそらくは1回では破れないであろう扉。
〈装置無力化〉判定で鍵を開ける際の難易度は、20~30の枠内に収まることが多いが、これより難易度の高い錠や低い錠もあるにはある。1つの扉に2つ以上の錠がついていることもあり、それぞれ別々に解錠しなければならない。錠に罠が仕込まれていることも多い。毒針が出てきてローグの指をちょんとつっつくというのが普通である。
時として、錠を壊すほうが、扉全体を壊すより早いことがある。PCが武器で錠をがつんとやろうとしたら、典型的な錠は硬度15、30ヒット・ポイントとして扱うこと。錠が壊れるのは、扉と別々に攻撃された場合だけである。従って、組みこみ式の錠をこの手段で壊すことはできない。住人のいるダンジョンでは、扉に鍵がかかっている場合、必ずどこかに鍵があることをお忘れなく。
特殊な扉には、錠があっても鍵がないという場合もある。かわりに扉の近くにある複数のレバーを正しい組み合わせで上げ下げすることで開いたり、模様の書かれたボタンがたくさんあって、それを正しい順番で押すと開いたりするのである。
普通のちょうつがい:このちょうつがいは金属製で、扉の片方の端と戸口枠や壁をつないでいる。扉はちょうつがいのあるほうに向けて開くことを忘れないように。このため、ちょうつがいがPCたちのいるほうにあれば、扉はPCたちのほうに開く。そうでなければ、扉はむこう側に開く。冒険者たちは〈装置無力化〉判定に1度成功するごとに1つのちょうつがいを取り外せる(もちろん、ちょうつがいが扉のこちら側にあればの話だが)。ほとんどのちょうつがいは錆びて離れなくなっているので、取り外す作業は難易度20。一方、ちょうつがいを打ち壊すのは難しい。ほとんどのちょうつがいは硬度10、30ヒット・ポイントを有する。ちょうつがいの破壊難易度は扉を打ち壊す際の難易度に等しい。
入れ子式ちょうつがい:このちょうつがいは普通よりずいぶん複雑なつくりで、よほど立派なつくりの場所にのみ見られる。この種のちょうつがいは壁の内部に仕込まれており、扉をどちらの向きにも開くようにしている。PCたちがちょうつがいに取りついていじろうと思ったら、まず戸口の枠なり壁なりをぶち抜かないといけないというありさま。入れ子式ちょうつがいは石の扉に見られることが多いが、木や鉄の扉に付いていることもある。
旋回軸/Pivots:旋回軸というのは実のところ、ちょうつがいでもなんでもない。単に扉の上下にこぶがついていて、そのこぶが戸口の枠に開いた穴にはまるようになっているだけのものである。旋回軸の利点は、ちょうつがいと違って取り外されずにすみ、作るのも簡単だということ。欠点は扉が重心(普通は中央)を中心に旋回するため、扉の幅の半分までのものしか通れないということだ。旋回軸のついた扉は石製のものが多く、先述の欠点を補うために横幅がかなり広くなっていることがよくある。欠点を補う方法その2は、旋回軸を片側に寄せ、扉の一方を厚く、もう一方を薄くして、もっと通常の扉に似た開き方をするようにしておくことである。壁にある隠し扉には、旋回軸を中心に旋回するものが多い。ちょうつがいがないぶん、扉があることを隠しやすいからである。また、旋回軸を使えば、本棚等の調度を隠し扉として働くようにすることもできる。
隠し扉には、隠れたボタンや踏み板を押すなど、特別な方法でないと開かないものも多い。いざ開くときには、通常の扉のように開くものもあれば、回転したり横にすべったり床に沈みこんだり天井に上がっていったり、はね橋上に下りたりして入口ができるものもある。ダンジョンを作る側は、隠し扉を床近くの低いところや壁の高い所に配して、見つけたり取りついたりするのを難しくすることもある。ウィザードやソーサラーにはフェイズ・ドア呪文があり、これを使えば彼らにしか使えない魔法の隠し扉ができる。
石の壁、鉄の壁、鉄製の扉には、ディテクト系の呪文(ディテクト・ソウツなど)を妨害するだけの厚さがあるのが普通である。木の壁、木製の扉、石製の扉には、それだけの厚さはないのが普通である。ただし壁に仕込まれた、壁と同じだけの(かつ1フィート以上の)厚さがある石造りの隠し扉は、ほとんどのディテクト系呪文を妨害する。
ダンジョン内の階と階をつなぐ通常の方法は、階段を使うことである。階段の上り下りにおいてキャラクターは移動速度にペナルティを受けることはないが、疾走することはできない。階段では、〈軽業〉技能の判定の難易度が4上昇する。階段には特に急であるため移動困難な地形と見なされるものもある。
トンネルの落盤や崩落は実に危険なしろものだ。ダンジョン探検家たちは、落ちてくる何米トンもの岩に押し潰される危険に加えて、たとえ生き延びても山のように積もった石くれに埋もれて動けなくなったり、これまでにわかっている唯一の出口への道を閉ざされてしまったりする。落盤が起きると、崩落したエリアのまっただ中(埋没域という)にいる者はみんな埋もれてしまい、崩落の周辺部(流出域という)にいる者も転げてくる瓦礫でダメージを受ける。天井が弱くなっていて落盤の可能性があることに気付くには、〈知識:工学〉または〈製作:石工〉の判定(難易度20)に成功すればよい。〈製作〉技能は未修得でも【知力】判定で代用できることに注意されたい。ドワーフは弱くなっている天井の10フィート以内を通りがかっただけで自動的にこの種の判定を行える。
弱くなっている天井は、何か大きな衝撃や振動が始まれば崩落する可能性がある。また、キャラクターが天井を支えている柱の半分以上を破壊した場合も崩落が起きる。
埋没域内のキャラクターは8d6ポイントのダメージを受ける。反応セーヴ(難易度15)に成功すれば半分ですむ。その上で、いずれにせよ“埋没”する。流出域内のキャラクターは3d6ポイントのダメージを受ける。反応セーヴ(難易度15)に成功すればダメージを受けない。この反応セーヴに失敗したキャラクターは“埋没(buried)”する。
“埋没”したキャラクターは、その状態が続く限り、1分ごとに1d6ポイントの非致傷ダメージを受ける。意識を失ったなら【耐久力】判定(難易度15)を行なうこと。これに失敗すれば、以後は掘り返されるか死ぬまで、1分ごとに1d6ポイントの致傷ダメージを受ける。
“埋没”せずにすんだキャラクターは、仲間を掘り出すことができる。なにも道具なしに手だけでやるなら、1分ごとに自分の重荷重の5倍までの石や瓦礫を取り去れる。一辺5フィートの立方体の空間を満たす石くれの量は1米トン(2,000ポンド)である。つるはし、かなてこ、ショベルなど、しかるべき道具を持っていれば、手でやる場合の2倍の早さで石くれをきれいに取り除けられる。“埋没”したキャラクターは【筋力】判定(難易度25)に成功すれば自力で脱出することができる。
ダンジョンの暗くじめじめした片隅には、カビや菌類が繁茂している。呪文その他の特殊効果に関しては、スライム、カビ、菌類はみな植物として扱うこと。罠と同様、危険なスライムやカビには脅威度があり、キャラクターはこれと遭遇することで経験値を得る。
暗く湿った場所にあまり長く放っておかれると、ほとんどのものは有機物のねばねばに覆われる。この種のスライム(ねばねばしたもの)は、たしかに気色の悪いものかもしれないが、危険なものではない。暗く涼しく湿った場所には、カビや菌類がはびこる。ダンジョンによくあるスライムと同様に無害なものもあれば、きわめて危険な物もある。マッシュルーム、ホコリタケ、酵母菌、白カビ、その他いろいろの丸いキノコや細長いキノコや平たいキノコは、大方のダンジョン中に生息している。通常は無害であり、一部は食用に適する(あまりうまくなかったり、変な味がするものも多いが)。
一辺5フィートのマスを占めるグリーン・スライムは、肉を1ラウンドむさぼり食うごとに、相手に1d6ポイントの【耐久力】ダメージを与える。接触した最初のラウンドには、グリーン・スライムをクリーチャーからこそげ落とすことができる。これにより、こそげ落としに使った器具は破壊される公算が高い。だが次のラウンドからは、凍らすか焼くか切り取るしかない。これにより、スライムの犠牲者にも同様にダメージが及ぶ。[氷雪]ダメージや[火炎]ダメージを与えるもの、太陽の光、リムーヴ・ディジーズの呪文はグリーン・スライムの一塊を破壊する。木材や金属に対しては、グリーン・スライムは1ラウンドあたり2d6ポイントのダメージを与える。このとき金属の硬度は無視されるが、木材の硬度は有効である。石にはダメージはない。