動画やテレビシリーズ、小説では、頻繁に同じシナリオが描画される。個々のメンバーが専門的で独自の技術で貢献する、エキスパートで構成されるチームが、複雑な強奪をやり通す、というものだ。宝石強盗がダイヤモンドの取引に乱入するのか、救出チームが警備が厳重な牢獄から価値の高い目標を救い出すのか、かつての受刑者が銀行の金庫の弱点を調べて報告するために雇われたのか、そのいずれかにかかわらず、注意深く計画された強奪のきめ細かくゾクゾクする物語は(しばしば身震いするような意外な展開と突然の変化で失敗するが)人気のある物語描写でいっぱいだ。陰謀と策略に基づいたゲームを運営するGMが複雑な強奪シナリオの興奮とスリルを導入したいと思うのは当然のことだ。
強奪を成功裏に進めるには、GMが参加者の強みと弱みを理解している必要がある。また、その強みを活かせる挑戦を組み上げる必要がある。
理想の強奪は、パーティ内の全てのキャラクターに輝くチャンスがあり、参加した人誰もが楽しめるものである。
冒険とは、目的を達成するために障害を克服することだ。通常PCは扉を蹴ったり、罠を外したり、モンスターを倒したりという形で、目の前にある障害に反応する。強奪はこのお馴染みの台本をひっくり返す。PCは自分と目標との間に立ちはだかる可能性のあるもの全てを注意深く調査し、現状を打破する計画を立てる。その一方で、GMはモンスターとNPCがPCの策略にどう反応するかを決定しなければならない。要するに、強奪を計画する時、PCが冒険を描き、GMがそれに反応する。
当事者はしばしば、強奪のために仲違いする。GMはパーティ・メンバーそれぞれ、あるいは2~3の小グループそれぞれを、あたかも個々のパーティであるかのように扱い、全てのキャラクターにそれぞれの技術を披露する機会を提供すべきだ。逆算でそれぞれの英雄の長所とプレイヤーの興味を考え、その英雄が最も得意に思える障害を提示すること。うまく練られた強奪には、全てのキャラクター(さらにはプレイヤー)が主役になる機会が必要だ。PCは自然に自分が得意とする行動に引き寄せられ、その技術を中心とした強奪の仕組みを組み上げたいと考える。強奪の相互のつながりを確かなものにすること、つまり目的の多くは異なる使命を並行して実行するキャラクター達によってのみ達成されるようにすること。それにより、各プレイヤーが他のプレイヤーの行動に関与することが確実になる。このチームワークの感覚が、全ての関係者のために強奪を行う原動力となる。
強奪の構築には、以下の4ステップを用いる。
強奪の目的は様々な形と規模で現れる。強奪の中には複合した目的や複数の目的があるものさえある。
アイテムの奪取/Steal an Item:このアイテムは像や絵画のような価値のつけられない芸術品や、指輪や剣のような魔法のアイテム、宝石や宝飾品や珍しい硬貨のコレクションのようなものが挙げられる。多くの場合、この種の強奪を成功させるには、強奪や破壊よりも隠密行動や誤認を誘うことが重要になる。金庫や宝物庫、乗り物のような極めて大きなアイテムの場合、運搬状の複雑さも加わる――大きなアイテムを動かそうとすれば、強奪の難易度は上昇する。
情報の奪取/Steal Information:これはアイテムの奪取に似ているが、古い書物、法的文書、巻物といった情報を持ち出すことになる。この目的を達成するには、物理的なアイテムを消し去るのではなく、情報を記録したり写したりすることが必要になるかもしれない。
クリーチャーの回収/Retrieve a Creature:このような強奪には、希少な、もしくは特別な動物やペットの奪取、同意しない犠牲者の誘拐、収監された目標の救出が挙げられる。目標本人ではなく、目標が持つ情報が本当の目的である場合もある。強奪は目標が望んで協力してくれるか、誘拐される犠牲者なのかによって異なった流れになる。いずれにせよ、強奪の中で、PCほどの技術を持たないNPCへの対処は、最優先の物品を手にすることよりもずっと難しいものとなる。
脱出/Escape:禁止された場所へ侵入しようとするのではなく、PCがどこかに捕らえられ、脱出しなければならない。一部のPCが拘束されそれ以外のPCが拘束されていない場合でも全員が参加できるが、行き帰りを繰り返しながら計画をやり取りすること自体も試練となるだろう。
アイテムを偽物と入れ替える/Replace an Item with a Forgery:この種の強奪はPCが何かを盗み出し、その場所に偽物をおいてくることを要求する。偽物を作り出し、オリジナルを盗み出し、偽物を置き、そのどれもが気づかれてはならない。単にそのアイテムを盗み出すことに比べれば、その目的を達成する理由はいくつもあるだろう。例えば、PCはそのアイテムを永遠に紛失させるための大きな目的があるが、それは無実の人に罪を課す可能性がある。また権力者がそのアイテムを探すことのないようにしながら、簡単に封印することができるようになるかもしれない。多くの場合、贋作家はオリジナルに触れることができないため偽物を作るのは難しい。まれに、元の場所に偽物を置く前に、偽物を作るためにアイテムをわずかな期間だけ手にすることができることもある。
資産の破壊/Destroy Property:誰かの目的を達成するために、犯罪の証拠や価値をつけられない芸術品、あるいは牢獄全てを破壊する必要があることがある。この種の強奪は他に比べれば密かに進める度合いが低いものの、見事に脱出するための時間を手にするまでに、構造的な妨害や時限爆弾や時間制の呪文を使用することで手を汚すことを避けられるかもしれない。
奪取と返還/Snatch and Return:ときに、強奪を2回行う必要があることがある。まずものを盗み出し、その後それを元の場所に戻すのだ。この種の強奪はアイテムと偽物を置き換えることに似ているが、実際には2回の独立した強奪になる。
警備の試験/Test Security:この種の強奪は実際のところ、既存の警備機構の試験をすることを意図した実験や訓練である。目標の所有者は警備の弱点を明らかにするためにPCを雇い、偽りの強奪を行わせる。警備の試験は大きな見返りをもたらしたり、貴重な利益を得られるかもしれない。あるいは、採用側が警備環境の弱点を知られたままでいたくないと考え、PCの口封じのために危険な作戦に出るかもしれない。その一方で、より高い賭け金をもたらす冒険の間における、良い気分転換にもなり得るだろう。この種の強奪では、通常価値のないものが目的の代役となる。
強奪がどれほどの規模でどれだけの影響範囲があるかを決める際、GMは準備と実行のそれぞれで、遭遇にどれだけの時間を割り当てるかを検討すべきだ。パーティが進めている冒険の中で、強奪が占める相対的な重要度も範囲に影響する。そして多くの場合、目標の価値も影響を与えるだろう。たった1日で達成すべき小さな目標は単純な強奪であり、キャンペーンの進展に不可欠な目標は複雑であるべきだろう。
単純/Simple:単純な強奪には、通常1人あたり1~2個の障害が必要であり、1日で計画して実行することができる。単純な強盗は事前準備をほとんど必要とせず、一般に大きな筋書きから大きくずれることはない。また、キャンペーンで始めて強奪を導入する場合に、短時間で終わり管理しやすいものになっている。例えば誰かを町の刑務所から追い出したり、商人の店からわずかな時間でものを盗んだり、下級の政府官僚から文書を盗んだりする。
中程度/Moderate:中程度の強奪では、1人あたり3~4個の障害があり、完了までに数日かかることもある。中程度の強奪は1~2回のゲーム・セッションの主要な要素として扱われ、計画を立てるのに少なくとも数時間を必要とする。これは、より複雑な処理が可能な強奪を計画し、実行することに慣れたプレイヤーに適したものだ。例えば、偽造文書を作るのに必要な期間だけ印章指輪を置き換え(その後オリジナルを戻し)たり、警備の行き届いた刑務所で独房に監禁されている囚人を救い出したり、貴重品を砦から盗み出したりというものが挙げられる。
複雑/Complex:複雑な遭遇には、1人あたり5個以上の障害が必要で、完了までに1週間、1月、あるいはそれ以上かかることもある。これはキャンペーンの大きな連作シナリオの中心であり、長期にわたる計画が必要となる。強奪自身が複数のゲーム・セッションを占め、キャンペーンにおける中心的な筋書きを動かす場合もあり得る。大規模な強奪の連作シナリオの例としては、厳重に警備された城から王冠の宝石を盗み出すことや、政治犯とその家族を敵地から密かに運び出すことが挙げられる。大規模で複雑な強奪は、数日から数週間の偵察が必要で、「内側」での信頼される役割に何人もの人を配置し、詳細な間取り図を得るための冒険を別に行い、時間制限がついた演習を行って、罠、技術、呪文に関する詳細な知識を得る。これは映画やスリラー小説全体を構成する、複雑な泥棒劇のようなものだ。
最も複雑な強奪こそ、手がかりと目的の間に立ちはだかる障害を取り除くためのより小さく扱いやすい作業の塊に分解できるだろうし、そうすべきだ。ほとんどは1人や2~3人のチームに適したもので、その技能と知識を活用する。これらは通常厳しい時間制限や特定の順序に従ったもので、各メンバーに輝く瞬間を与える。GMは、プレイヤーがどのような挑戦を楽しむのか、どのようなNPCを打ちのめしたいのかを考慮しなければならない。
GMはパーティが既に所持している技能と資源を試す課題に焦点を当てるべきだ。別の課題が存在するかもしれないが、PCが達成できない手がかりを調査する可能性は低くなってしまう。各障害は1~2名のキャラクターが挑戦するもので、各キャラクターにほぼ同じ数の挑戦が必要になる。もし似た能力を持つキャラクター(例えば、戦闘に焦点を当て、ほとんど技能を持たないキャラクター2人)がいたなら、同じ障害物の集まりで競い合うことになるため、一緒に仕事をしたいと思うかもしれない。
ゲームの中断を防ぎ、克服するためのグループの協力を促すために、障害には少なくとも2つの解決策が必要だ。グループの技能へのボーナスだけを見て、キャラクター1人しかできない試練を与えてはいけない。むしろ、キャラクターが好きそうな挑戦の種類を考えるところから始め、状況にあったものに基づいて難易度を設定すること。強奪を運用している間に、難易度や使われる技能さえも簡単に変えてよいのだ。
例えば、パーティが貴族の指に嵌まっている魔法の指輪を偽物と交換する必要があるとしよう。パーティ内のローグはものまねや密かな運搬が得意なので、こうした才能を強調する試練として、まずは貴族の下男になりすまして宝石商を説得し、安価な代替品の宝石を製造させる。それから邸宅に睡眠のポーションを持って忍び込み、別のキャラクター(その貴族に謁見する機会を得ているが、注意深く調査された後でようやくだ)がその薬を主人の食事に混ぜ込めるようにする。
障害の数/Number of Obstacles:強奪の規模によって、PCが直面する障害の数が決まる。中程度または複雑な強奪の場合、強奪に中間地点があるかのように段階的に進行する。貴族の晩餐会でPCが克服する障害はいくつかあり得るだろうし、晩餐会で得たものを使っている間に町で直面すべき障害が更にいくつかあるだろう。また、街で拾ったものを使って要塞に入る準備ができた後には、別の障害もあり得る。一人が捕まって、他の人が助けようとすれば、強奪はさらに拡大されるかもしれない。
すべての作業をPCがやらなければならないわけではない。どの作業が必須で、どの作業が利益をもたらすが厳密には必要ではないかを、GMはある程度理解しておくべきである。ステップ3に示されている尺度は、開始地点と克服すべき必要な障害としての最小数の作業(例えば中程度の強奪の場合、1人あたり3つ)を示している。つけ外しできる障害や、障害が変化する複数の経路は、強奪の残りを肉付けする役に立つ。小さな障害を克服すると、PCは最終的な目標に向かって着実に前進していく。
欠陥/Flaws:強奪は防御の欠陥によって機能する。ここで説明する障害の殆どにおいて、ルール上の弱点が組み込まれている。呪文には環境を回避する特別な方法があったり、解呪される可能性がある。鍵は道具や技能で突破されるかもしれない。罠は発見したり解除したりできる。警備兵やNPCのような知性を持つ相手に対しては、キャラクターは対話する必要があるだろうし、いくつかの弱点や悪意を決めておいて、PCがそれを見いだせるようにする必要がある。例えば、警備員のグループはお世辞に弱いかもしれないし、パトロールに熱を上げすぎていてそのために脱線しやすいかもしれないし、単にあまり優秀ではないかもしれない。
最も効果的な警備の設定は、以下の障害区分の要素が複合されて使用される。この一覧は出発点として意図されている。PCは、奇妙な能力や専用のアイテムを利用したいと考える可能性が高く、GMに新しい障害へのインスピレーションを与えるかもしれない。障害物区分の項目は、通常、同種の障害に対して最も強力な戦術を提供する。このような戦術の詳細については、強奪の運用を参照のこと。
警報と占術/Alarms and Divinations:警報と占術は本質的には受動的なもので、盗賊になる可能性のある人が強奪を実行することを止める役には立たないが、警備兵のような他の形態の防護機能が警戒を続ける役には立つ。PCが身元を明らかにする必要が生じるかもしれないし、強奪が完了した後でさえ、潜在的な複雑さを加えていく。警報には鳴り響くベルに取り付けられた仕掛け紐のような機械的装置、吠える犬(後述の警備兵を参照)、アラームやいくつかの感知呪文や(念視)呪文のような魔法の効果が挙げられる。この種の防護機能の重要な利点は、隠匿が容易なことだ。もし盗賊が警報装置の存在を知らなければ、それを見つけたときには手遅れになるかもしれない。欠点はもちろん、わずかな準備でこのような受動的な機能を回避することがかなり容易なことだ。パーティが警報や占術を突破できなかった場合、それ自体がPCの進行を阻む障害になるわけではなく、通常は他の障害(通常は警備兵)を強化することになる。〈隠密〉と相殺呪文が警報や占術を無効化できるかもしれないし、状況によっては変装すれば良いこともある。
障壁/Barriers:閂の降ろされた扉、城の堀、門、鍵、厚い石壁は、強奪の妨害に役立つ。壁のように、障壁の中には単純ではあるが、侵入までの時間を要するものもある。上質な鍵を解除するには特別な道具が必要になるかもしれないし、毒ガスが充満した部屋には魔法が効くかもしれない。障壁は安価であり、それだけで効果的に機能するようには作られていない。なぜなら、十分な時間があれば、どんな障壁も突破できるからだ。力と技巧は障壁に対して最も効果的だ。しかし、観察によって秘密の迂回路の手がかりをPCが掴むかもしれない。通常、力による突破を必要とする障壁は、ガシアス・フォーム、フェイズ・ドア、ストーン・シェイプ、(瞬間移動)呪文によって回避できる可能性がある。魔法の障壁を打ち破るには、解呪するか、特定の相殺呪文が必要になる。
警備兵/Guardians:障害の中には、ある範囲を巡回して見張りをする知性のある警備兵、侵入者を襲う危険な獣(訓練された犬、巨大な蛇、大きな猫、さらには異常に鋭い感覚を持つ異形や別次元界のクリーチャーなど)、魔法的な存在や人造(ガーゴイル、ゴーレム、自律行動する鎧など)といった形態を取るものがある。警備兵は積極的で、侵入者や異常な活動に気づくのが得意だ。警備兵には多様な戦術が有効だ。特に陽動や賄賂のような危険にさらされやすいが、隠密や変装によって回避されたり、力で押し切られたりする可能性もある。場合によっては、戦闘の代わりにスリープやディープ・スランバーなどの呪文を使って、素早く護衛を追い払うこともある。密かな運搬を利用すれば、まるでPCが脅威ではないかのように見せかけることができ、隠し武器や隠し道具を持ったまま警備兵を避けることができる。
災害/Hazards:護衛に警告したり侵入を妨げたりするのではなく、直接侵入者に害を与える障害は災害の区分に入る。災害には機械的な罠のようなありふれた危険や、グリフやその他の条件に従って作動する防御的な呪文が挙げられる。イクスプルーシヴ・ルーンズのような呪文は文書に罠を仕掛けるために使用でき、強奪の終盤に、あるいは強奪が終わった後にさえ、災害をもたらすことがある。これらの利点は、作成し配置するのは比較的安価であることだ。しかしまた、侵入者が認識し前もって計画できるならば、一般には突破するのも比較的容易でもある。技巧と観察は災害に対する最良の対策であり、回避するために解呪が必要なこともある。
偽りの場所と隠されたアイテム/Misdirection and Hidden Items:しっかり防護の施された要塞は、本当の宝が実際には別の場所にあるときでも細やかな財宝があるかのように見えるかもしれない。不可視の魔法や幻術はアイテムを隠すのに役立つ。他次元界に作用する魔法は、手の届かないところに貴重なアイテムを保管しておくことができる。偽りの場所は賄賂や観察、占術呪文などで突破でき、これらを使うことでPCは目標の本当のありかを見出すことができる。
強奪を運用する最後のステップで、GMは障害をまとまりのある防衛一式として集約する必要がある。いくつもの輪の中央におかれた目標を想像してみよう。それぞれの輪はPCが克服しなければならない障害の各層を表している。最も内側の輪は目標に到達するために解決しなければならない最後の障害(あるいは障害の組み合わせ)だ。一番外側の輪に置かれた障害は、PCにとって最初から最も明白な課題であり、この障害を突破するとPCは次の輪に移動する。GMは、要素間に破線を引いてその繋がりをきちんと示し、様々なアイテムや情報に「特定の障害に属している」と付箋をつけることで、強奪の中にある障害を図示できる。
原因と結果が明確につながっていることで、プレイする際に強奪は適正だと感じさせる。プレイヤーは障害をくぐり抜ける際に全てのかけらが動くのを見ることができるようにすべきだ。GMは同じ障害を克服するために複数の手段を入れ込んでおくか、プレイ中にプレイヤーの意見を取り入れるべきだ。これは、警備兵の向きを変えるためや隠密しての攻撃をおこなうために、パーティを分割することを意味するかもしれない。壁を乗り越えたり、隠れたトンネルを通過したりして、壁を迂回したりすることもあり得るだろう。最善の障害とは、複数の技能の組み合わせや巧妙なやり方によって克服できるもののことだ。
精密に計画しない/Don't Overplan:強奪はPCに対してかなり寛大であるべきだ。GMはいくつかの障害を選択できるようにし、解決策を柔軟に見つけられるようにすべきである。どのGMも、プレイヤーが取り得る全てのアプローチを予測することはできない。GMはプレイヤーがアイデアを持ち込めるように、余地を残しておくべきだ。どのような防衛策も永遠に、あるいは完全に堅固なものではないし、どのようなNPCもその力や立場において完璧ではない。計画通りにプレイヤーがぶつからなければならない厳格な構造を作り出すのではなく、防御の隙を見つけ出して、それを新しく革新的なやり方で活用することをプレイヤーに認めること。強奪の図示は良いツールだが、ダンジョン・マップと同様に、GMは常にそれを修正したり、予期せぬ出来事が発生した場合には全てを捨て去ったりする必要がある。
制限と裏切りは全ての強奪に含まれるわけではない。しかしこれらはここに記されるほどには一般的なものだ。これらを使用するには、配慮をお忘れなく――特に裏切りについては。
禁止事項と制限/Inhibitions and Limitations:強奪それぞれは失敗と成功の両方から導かれる結果である。強奪を完了するための成功や失敗の結果だけでなく、特定の障害にこれらを紐付けることで、冒険の各段階にこの結果を階層的に機能させること。PCが強奪を強引に進もうとする(立ちふさがる敵を痛めつけるか殺したり、人の財産を無差別に傷つけたりする)と感じたなら、その結果は厳しいものになるべきだし、目的を失ったり傷つけたりすることさえある。
例えば、貴族の家を相続する女性が「豪奢な兄の信頼が傷つき、家の支配権を主張できないようなって欲しい」と願ったとしよう。そこで彼女は一族の遺言を盗み出すためにキャラクターを雇う。彼女は家族や従者に傷をつけて欲しくないし、家財一式を痛めたくもない。こうして英雄達は制約についての動機を得た。彼らは密やかで暴力を伴わないやり方で強奪をやり遂げる方法を考え出さなければならない。
裏切り/Betrayal:強奪が陽動や詐欺そのものである場合もある。誰かがキャラクター達を邪魔にならないようにするため、偽りの強奪を成功させようとしている間にそのグループが捕まるように仕向けるというように。このような裏切り行為は通常一度だけ使用される(理由が大きく変わったものでも2回)。効果的に使えば、キャラクター達は計画を調整し即興で対応せざるを得なくなったり、苦難を口先三寸で逃れたり、冒険に本当のスリルをもたらすことができる。裏切り者の計画には気の緩みのある目的を僅かに残しておき、極めて抜け目のない集団がその企みを見つけ、形勢を逆転できるようにしておこう。
強奪では、キャラクター2名だけが一緒に行動し、キャラクター1名だけがパーティの残りとは独立して行動することもある。この場合、小グループまたは個人は独立した平均パーティ・レベル(APL)を持つ、個別の冒険パーティとして機能する。GMは適切な脅威度を適用することで、個々の行動の難易度を判断できる。パスファインダーRPGコア・ルールブックの『遭遇をデザインする』章では、プレイヤーが3人以下の場合、APLから1を引くことを推奨している。一人のキャラクターが何人の護衛を排除できるか、盗賊1人で解除する罠がどれほど難しいかを考慮する際、GMはこの式に従って脅威度を決定すること。全てのキャラクターは自分の強みを発揮する作業を処理しているに違いないため、単独で作業しているにもかかわらず、その挑戦は適切なものでなければならない。1~2名のキャラクターは3名で期待される力を得るには既に不利益を被っているため、簡単な遭遇と平均的な遭遇が強盗の障害の大部分を構成しているべきだろう。
準備が終わったなら、強奪の始まりだ。この過程には、大きく計画と実行という2つのパートに分かれている。
強奪の運用にはプレイヤーが冒険に関してより積極的になることが含まれ、GMがゲームの計画に時間を必要とするのと同じように、パーティ・メンバーには強奪をどのように実行したいのか理解するための時間が必要である。チームは一般に強奪計画の様々な側面を探索し、検討し、改善するために、実践と同じかそれ以上の時間を費やす。チームメイトは実行の瞬間よりもずっと前に、自分たちの能力を最大限に発揮する為に、計画のあらゆる点を整理し、説明する。
全ての強奪は目的から始まる。もしかすると、NPCがその仕事をするためにキャラクターを雇い、どのように対処するかは一任されるかもしれない。ベテランの窃盗犯が1回限りの仕事のために、参加者に余分なメンバーを数名必要としているのかもしれない。おそらくキャラクターは自分の目的を達成する唯一の手段として、強奪を思い描いているだろう。
目標が決まれば、適切に計画を立て、偵察や調査を行う。キャラクターは、自分が獲得しようと選んだ対象や人物の位置や防備について、できる限りのことを学ばなければならない。彼らは警備兵のパターンを観察することができるだろう。目標の位置に関する重要な情報を知っているNPCを見つけるかもしれない。彼らが全ての情報を集めて初めて、本当の強奪の計画を始めることができる。
この計画段階におけるGMの主な役割はPCの目と耳になることである。すなわち質問に答え、筋書きを導入し、目標の現状の詳細について説明することだ。そうして、プレイヤーはそれを破壊するための最善の計画を立てることができる。GMはより伝統的な冒険のようにプレイヤーを導くという誘惑を拒み、代わりに覚え書きを記し、PCの立案より前に用意していた障害を適応させる計画を練るべきだ。強奪の楽しみは問題解決と支配権の獲得にある。一部のGMやプレイヤーは強奪の計画段階を愛しているが、他のプレイヤーは退屈だと感じるだろう。GMは全てのプレイヤーが関われるように努力するべきであり、もし1~2人のプレイヤーの気が散っているようなら、他のメンバーが計画を続けている間に、彼らを引き離して短い偵察を行い、彼らが楽しみながら貢献できるようにすべきだ。
GMは強奪の導入役としてNPCを加えたり、PCの計画策定を支援できる、経験豊富な味方を追加したいと考えるかもしれない。これにより、GMはプレイヤーに対する防衛策に関する情報を提供できるようになり、プレイヤーが本当に些末なことや、決して成功しないような無謀な計画に囚われないようにすることができる。このようなNPCはリーダーではなくアドバイザーとしての役割を担うべきであり、キャラクターを直接操作してはならない。特に、キャラクターが自分自身で物事に対処できるという自信を示す場合には。NPCの役割は、自信がないと思われるPCを正しい方向に向かわせることだ。
机上検討/Planning at the Table:強奪を計画する過程は、ゲーム・セッションの大部分を占める可能性もある。GMはプレイヤーに会話のほとんどをさせるべきである一方で、質問に答えたりNPCを演じたりはすべきだ。プレイヤーはこの段階に全面的に力を注ぎ、アイデアを練り上げる必要がある。しかしプレイヤーの関心が薄れ始めた場合、GMは提案や締め切りをPCに提示したり、準備ができていることを納得させたりすることができる。しかし結局のところ、どの程度計画に力を注ぎ、どの程度の不測の事態に対処したいかはプレイヤー次第だ。情報が限られていたり、計画が不十分だったりした状況で 実行に移すことをプレイヤーが選ぶこともあるだろう。当然のことではあるが、GMはそのことでプレイヤーがより良い計画を立てられたはずだとか、自分が考えていたことを全て実行していないからという理由で、過度にプレイヤーを罰すべきではない。ゲーム世界を一人で全て監視しているというGMの特性上、自分の作った状況における特定の部分がプレイヤーにとって明らかである、という誤った考えをGMは簡単に持ってしまう。
単純な強奪では、計画の段階が短くなり、PCが必要とする情報のほとんどをすぐに使用できるようになる。中程度あるいは複雑な強奪では、計画の段階でNPCとのやりとり、共同体からの情報収集、強奪を起こす場所の探索など、いくつかの小さなシーンが含まれる。
計画が終わったら、実際に強奪を繰り広げる時だ。複雑な強奪(あるいはプレイヤーがあまりに複雑な計画を考え出した場合)では、GMはこの部分を別のゲーム・セッションとして分割することを検討するかもしれない。これにより、時間をかけてPCの計画を確認し、その計画への対応方法、警備と防衛の対処方法などを整理することができる。例えGMが計画と実行の段階を2つのゲーム・セッションに分けたくないとしても、最もありそうな行動と結果を踏まえてメモを見直し、物事がどのように展開するかを決めるために少しの時間(おそらく15分間の休憩)を費やすべきだ。
一歩ずつ/Step by Step:強奪が登場するセッションは、扱いにくい場合がある。GMは同時にいくつかの遭遇をこなさなければならず、必要であれば各状況において時間をかけて追跡し、メモを取り、キャラクターやNPCの動きを分析しなければならない。勤勉であることは、全体像を維持するのに役立つ。
グループの分割/Splitting the Group:強奪で最も難しいのは、プレイヤーがパーティを分割させまいとする思考を打ち砕くことだ。前述の通り、キャラクターに分かれて行動する理由を与えることが重要になる。この理由の多くは時間制約に由来するものだ。キャラクターが計画を実行するにあたり、厳しいスケジュールを守ることが重要かを印象付けることである。計画の複数の部分を同時に実行する必要があるため、全員が一緒にいるという選択肢はまずあり得ない。通常、グループをまとめることは作業に役立つが、大勢の人がいると不利になることがある。〈隠密〉について考えるのが最も簡単だ。一番低い達成値を使ってパーティがばれたかどうかを判定する。また、グループがより疑わしく見えることから社交的なやりとりも困難を生む。〈はったり〉の苦手なパーティ・メンバーが他人を遠ざけたり、一人を変装させるよりもグループ全体を変装させるほうがずっと難しかったりする。支援を受けずに戦いたいと思うキャラクターはほとんどいないため、戦闘は最大の挑戦となる。幸いなことに、多くの強奪において戦闘は気晴らしに最適だ。強奪はPCが分離して行動する際にテーブル上でゆっくり運用することができる。GMはそのシーンに参加していないプレイヤーに友好的なNPCを動かしてもらい、彼らの関与を続けることを好むかもしれない。
いったん強奪が始まってしまうと、PCは実際にはチームメイトがどのように行動しているかほとんど分からない。ゲーム内のコミュニケーション手段を使用すればキャラクターが持っていない知識に基づいて行動するという誘惑を減らすことができる。これにはメッセージやセンディングのような意思疎通用の呪文、〈はったり〉を用いた密かなメッセージの伝達(ただし通常は距離が近くなければならない)、フェザー・トークン(バード)のような魔法のアイテムが挙げられる。また、強奪を始める前にグループで通用する共通の符丁を決めておくのも良いだろう。鳥の鳴き声や落書きといった比較的目立たない符丁は、PCの行動の成否を他のパーティ・メンバーに伝えるのに役立つ。極端な場合には、キャラクターの出番でない時にはプレイヤーが部屋の外に出ておかなければならない場合だってあり得る。もしこれが必要なら、誰もゲームから長期間離れることがないよう、GMは行動させ続けるべきである。
複雑さと不慮の事故/Complications and Contingencies:強奪のいくつかの部分が失敗すると、即座に強奪を終わらせることなく間違いなく面白さと緊張を加えられる。ゲームの世界では、GMはグループがまとめた強奪の全ての段階を検証し、何がうまくいかないのか、そしてNPCがどう反応するのかを把握し、新しいひねりを計画すべきだ。1回のダイス・ロールで作業の成否を決定させる多くの状況においては、失敗をわずかな成功、時間の遅延、大きなコストのかかる成功といったものとして扱うことを検討して欲しい。いつものように、GMは悪い出目を罰するよりも、キャラクターの賢い思考と良いロールプレイに報いるべきである。
例えば高い〈交渉〉技能を持つキャラクターが護衛をカードゲームに誘い出し、仲間が金庫室に忍び込めるようにする必要がある場合を考えてみよう。判定に失敗すると、護衛はキャラクターの努力を断固として受け入れず、その行為に気付くのではなく、護衛は他の護衛もゲームに参加させたいと考えるようになって、そのキャラクターは多くの護衛を本当に魅力しなければならなくなる、というように。
プレイヤーは計画段階で独自の危機管理計画を立てることもできる。フィクションの強奪は敵よりも参加者が賢くなければならないというねじれがあることが多い。そのため、不測の事態が起きた場合には、細かいことを気にするのはやめておこう。キャラクターの懐にアイデアがあれば、必要に応じてルールを少し緩和しよう。GMは各プレイヤーが強奪用に設定した対策1つを許可しても良い(これは通常、中程度か複雑な強奪用である)。計画がうまくいかなかった場合、関係するキャラクターは自分たちの対策を呼び出すことができる。彼らはまさにそのような状況を想定していたことがわかり、課題に対処するための適切な道具、文書、知識を手元に持っていた。この方法では、障害を自動的に突破することはできないものの、障害が発生した後に再挑戦したり、判定を試みたりすることができる。
以下に示すのは、PCが強奪を実行する際に使用する、一般的な戦術である。それぞれに一般的な説明があり、その戦術の中で使われる技能も記載している。これらの戦術の全てでこれらの技能を使用するわけではない。多くの場合、キャラクターが適切で正しいことを行ったなら、判定を行うことなく簡単に成否を判定できる。
賄賂/Bribery:相手を騙したり圧倒したりするよりも、相手の強欲に訴える方が簡単な場合もある。このやり方には2つの重要な要素、説得とそれを支える金貨がある。強奪を計画するチームは賄賂を渡して侵入の際に警備兵に見て見ぬ振りをさせたり、建築家の親方に秘密の出撃路がどこにあるかを明かさせたり、強力な魔法使いに何の質問もさせずにノンディテクションの巻物を作らせたり、強奪の進行中に偶然の見ず知らずの人に黙ったままでいさせたりさえできるかもしれない。半ば知性を持ったクリーチャーを(犬に生肉を与えたり、派手だが安い物品を護衛クリーチャーに与えたりして)買収することも、賄賂戦術として扱われる。知性のあるクリーチャーに有効な賄賂の額を決定するには、クリーチャーの脅威度(あるいはグループの合計脅威度)を英雄的なレベルに用いて表14-9:NPCの装備を参照し、合計GPを基準値とする。適切な賄賂はわずかな見返り(賄賂を送った人に警備長を教えるとか)なら5%、大きな見返り(秘密を明らかにするとか)なら10%、単に他の場所を見ていてPCを見逃すなら25%以上というように様々だ。この行為が雇用主にバレたときに仕事と評判にうける危険によって決まる。PCは通常、〈鑑定〉や〈真意看破〉を使って適切な賄賂を決定し、場合によって〈交渉〉(まれに〈威圧〉であることもある)で対象に賄賂を受け取るよう説得する必要がある。
変装となりすまし/Disguise and Impersonation:PCが障害に自分が別の人だと思わせる必要がある場合は、変装となりすましに分類される。化粧、人工的な部位、知恵を用いるものもいれば、魔法を使うものもいる。変装となりすましでは〈はったり〉と〈変装〉が重要な要素だが、会話パターンを真似るのに〈言語学〉が役立つこともあるし、特定の人が持つ能力を示すために〈知識〉や〈職能〉が必要になることもある。ディスガイズ・セルフ、ポリモーフ、シーミングといった呪文は、PCの変装をより良いものにしてくれる。アンディテクタブル・アラインメント、ノンディテクション、マインド・ブランクのような呪文は、占術呪文に対する部分的な防護を与えてくれるが、変装したPCが見たままでないと、近くにいる術者にヒントを与えるかもしれない。
解呪と相殺/Dispelling and Countermagic:この非常に特殊な作業には、術者あるいは特定の魔法の道具を使う能力を持った人が必要となる。占術、受動的な警報、防御的な呪文など、いかなる種類の防護に対しても、魔法による解決策が必要になるかもしれない。〈呪文学〉や〈知識:神秘学〉はどんな呪文が作動中で、適切な対抗手段が何かを確かめる役に立つため、解呪と相殺においては重要である。
陽動/Diversion:陽動により、防衛側の重要な要素から誰かあるいは何かを引き離すことができる。1人、少人数のグループ、コミュニティ全体の注意を逸らすために陽動が必要になることがあり得るが、規模が大きくなるほど難しくなる。陽動は対立する集団の間におきる実際の小競り合い(ライバルの盗賊団と地元の警ら隊)、魔法の派手な誇示、法外なまでのいちゃつき(これは法廷では特に価値がある)からなるかもしれない。陽動では〈はったり〉が最もよく使われるが、〈威圧〉と〈芸能〉も注意を引くのに役立ち、多くの陽動ではそもそも技能を必要としない。陽動を起こすのに役立つ呪文は、ダンシング・ライツ、派手な攻撃用の力術、幻術(特に(虚像)と(紋様))、召喚術といったものが挙げられる。
技巧/Finesse:身体的な技能を(優れた器用さを要することが多い)必要とする活動は、技巧に該当する。これには、曲芸、解錠などが含まれる。〈軽業〉や〈装置無力化〉は技巧の役に立つ。技巧に弱い呪文の使い手であっても、ノックを使えば鍵を突破できる。
力/Force:ほとんどのキャラクターは暴力で敵を倒すのが得意なので、この種の作業は最も簡単に完了できる。これは明らかに戦闘に焦点を当てたものだが、他の力の要素としては、大きな装備の運搬、場内への侵入を阻止する門の吊り上げ、扉の破壊などが挙げられる。
観察/Observation:ほとんどの強奪では、通常メンバーの1人が他のメンバーのために残って周囲を監視するように求められる。これには、近づいてくる警備兵を見張ること、特定の人物がどこにいるのかや部屋が本当に空いているのかを観察するために(念視)呪文を使うこと、あるいは単に別のチームが作業をし、その行動を調整することなどが挙げられる。また、他の作業のバックアップや、軌道から外れた場合に救助する役割を担うこともある。〈知覚〉は観察で最もよく使われる技能である。しかし観察を通して得られる必要な情報を評価するには、観察されている人に対する〈真意看破〉、適切な〈知識〉、〈呪文学〉や〈職能〉が必要となる。
説得/Persuasion:〈威圧〉あるいは〈交渉〉のような社交技能の試みは、警備兵に対して困難な戦いとなる可能性がある。警備兵の仕事は悪人を締め出すことだからだ。心術呪文やイノセンスやグリブネスといった呪文はこの自然な警戒心を克服するのに役立つ。
密かな運搬/Smuggling:密かな運搬は複雑で、多様なやり方があり得る。警備の行き届いた面会室に武器を潜り込ませるといった単純なこともあれば、曲芸師の一団を気づかれることなく、無傷で公爵の謁見室を通過させるといった複雑な場合もある。密かな運搬は〈手先の早業〉で行うことが多いが、〈はったり〉や〈変装〉は価値あるものや人を密かに運搬する間、見た目を維持するのに役立つかもしれない。
隠密とごまかし/Stealth and Subterfuge:敵や護衛を密かに通過するのが隠密とごまかしの主要な内容だが、この分類には判断を要する別の仕事も含まれる。例えば、壁をよじ登ったり窓から滑り下りたり、密かに求愛者の飲み物に睡眠薬を加えたり、艦首の隊長から刑務所の鍵を外したり、艦首の寝室をこっそり覗いたりする。このような状況で使用される主な技能は〈隠密〉と〈手先の早業〉だ。インヴィジビリティ、サイレンス、(ポリモーフ)呪文、慎重に使用されるダークネスは、PCをよりうまく隠してくれる。
陽動は自分自身を隠すのではなく、隠れようとする仲間を助けるキャラクターに向いている。いくつかの特別な陽動について、以下に説明する。
二重はったり/Double Bluff:これはある場所に忍び込もうとする場合に便利だ。隠密の程度が低いものが一緒に入り、捕まったら代わりにより隠れるのがうまい仲間を助けるための分派を作り出すことができる。警備兵が警報を発して対応した場合、この手法は裏目に出る場合がある。
牽制/Harrying:敵が防御的な位置をとっていたり、数の優位を持っていたりする場合、一部のPCは敵を倒すためではなく、敵の注意を引くためにとにかく攻撃しようとすることができる。この小競り合いは、注目を集めるには十分信頼できるものでなければならないが、敵が総攻撃するものであってはならない。
意図的な乱闘/Puppet Brawl:都市環境では、警備兵をその場所から引き離すために、一部のPCが無作為に選んだ地元の人や他のPCと乱闘を始めることがある。
勧誘/Razzle-Dazzle:社交技能を活用して陽動する最も一般的な方法である勧誘は、警備兵を誘惑して面白い会話に参加させたり、演芸に誘ったりして仕事を放棄させる。
集団で行動する場合、密かに行動したり変装したりすることが困難になる場合もある。1人の人物が高度な技術と専門性を有しているかもしれないが、多くの場合、最も値の低い〈隠密〉や〈変装〉がグループ全体が捕まる要因となる。最も効果的な方法はこれらのキャラクターを別作業に割り当てることであるが、それが常に実行できるわけではない。このような危険を軽減するための方法をいくつか紹介する。
人の数が増えるほど、身を隠すのにより広い場所が必要になる。そのようなことができたとしても、最も不器用なものに合わせて隠れることになる。仲間の〈隠密〉判定に他人が援護をすることは不可能なことが多い。グループでこっそり忍び込もうとしている場合、隠れるのが得意な人物や知覚力の高いキャラクターに、他のメンバーより先行してもらうのはいい方法だ。先行するキャラクターの役目は、他のメンバーが遭遇する前に護衛や罠を見つけることだ。危険を知らせると、他のパーティ・メンバーは進路を変えたり、自分の能力を使って状況に対処できる。後方のキャラクターは、距離や扉や壁のおかげで気付かれにくくなる。
《相乗する隠密》のチームワーク特技を持つキャラクター達は、その中で最も良い〈隠密〉の出目を使うことができる(とはいえ、自分の技能修正値を使用する)。大胆な潜入者のスワッシュバックラーや案内人や番人のレンジャーなど、仲間の〈隠密〉判定を強化する能力を持つアーキタイプもわずかながら存在する。
中装鎧や重装鎧は多くのキャラクターが生き残るために必要だが、警備兵をすり抜けたり、身を隠したりするには、しばしば逆効果になる。より軽い鎧を身につけるのは常に選択肢ではあるが、重い鎧に伴うペナルティを減らす方法もいくつか存在する。高品質の鎧やミスラルのような特殊な素材で作られた鎧は、鎧による判定ペナルティを軽減してくれる。クリーピング(Ultimate Equipment 116ページ)、シャドウ、スリックなど、魔法の防具の特殊能力の中には、鎧から通常なら受けるであろうペナルティを軽減してくれるものもある。グラマードの防具の特殊能力を使えば、重い鎧を身につけたキャラクターであっても群衆の中に溶け込むことができる。全ての防具の判定ペナルティは 〔鎧の熟練者〕の特徴やファイターの鎧修練によって軽減することができる。鎧軟膏を使用したり、エフォートレス・アーマーの呪文も、防具の判定ペナルティを軽減する。
変装が隠密よりも優れているのは、計画実行にあたりパーティの参加者全員が変装して行動する必要がないこともあるからだ。例えば、1人か少数のキャラクターが賞金稼ぎや警備兵に変装し、残りのキャラクターを鎖につないで連れ歩くという場合だ。壊れやすい鎖や偽装枷を使うことでPCは簡単に解放できるようにしながら、鎖に繋がれたように見せかけることができる。しかし、キャラクターが想定されている人格を十分に再現できなければ、良い変装でも失敗に終わる。最高の変装とは、召使、労働者、警備兵など、質問されたり会話に参加したりすることのない人々に扮することだ。厚かましい侵入者は、質問を避けるためによそよそしいあるいは無愛想な態度をとったり、外国の貴族や軍人と言った権力者のフリをしたりするかもしれない。集団で変装する場合、キャラクター1人が権威のある人物に変装し、残りのキャラクターがその召使いを演じることができる。これは、パーティが最高の社交能力を備えたPCに従うという口実を織り込むことにつながる。
潜入には勝利を収めるための隠密と思慮が必要となる。強奪とは異なり、潜入は通常少数の技能に限定され、パーティ全体ではなく1~2人のPCに適している。
潜入には単一の設定された目標に対する直接的潜入(強奪に似ている)と、二重生活を必要とし、具体的でない目標をもった長期的なスパイ活動の両方が含まれている。潜入には破壊して押し入ることから、社交技能を使って内側に居場所を見つけることまで様々なものがある。潜入には通常〈隠密〉と〈変装〉が必要で、しばしば社交技能と〈手先の早業〉も要求される。
潜入は通常の強奪と同種の目標を1つ持つこともできるし、代わりに以下の目標から1つを目標とすることもできる。潜入は強奪ほど複雑ではないため、一般にはキャンペーンを変えるような目標よりも、より小さくより直接的な目標に適している。
クリーチャーの暗殺もしくは誘拐/Assassinate or Kidnap a Creature:この潜入の目的は、1体もしくは少数の目標を殺害または捕獲することだ。クリーチャーにとって家や拠点の安全なところで気が緩むことは自然なことなので、最も弱いところを狙って捕らえることができる。多くの場合指導者への攻撃は信奉者を逃亡させ、内紛に陥らせることになり、直接の対立なく脅威を取り除くことができる。
プロパガンダの拡散/Spreading Propaganda:この潜入では、PCは誤情報を拡散させる為に人混みに紛れる。この種の潜入では、PCは変装しながらにしてではあるが公共の場所などで積極的に人と関わらなければならないため、とりわけ危険である。通常、これは敵対する国や組織のために行われ、その目的は政治的または軍事的な乗っ取りの前段階として士気を低下させ、民衆を彼らの指導者に敵対させることだ。あるいは、PCは扇動の実行者として行動し、民衆に対して彼らの指導者に反旗を翻すように仕向けたり、その指導者に別の集団を攻撃するように煽ったりするかもしれない。プロパガンダを広めるには、ポスターを貼ったり落書きをしたりといった、対話ではなく芸術を通してプロパガンダのメッセージを伝えることが含まれるかも知れない。これには適切な〈製作〉を行う必要がある。本当に効果的な芸術によるプロパガンダを行うには、潜入者が他の人々と交流することが必要になる。ただし、複数の人の実行が必要な大規模なプロパガンダ芸術の作品を作ることでも、うまくいく可能性がある。
偵察の実施/Perform Reconnaissance:潜入者は、ある場所とその住民に関する情報を集めようとする。その場所の防備と護衛、その戦略的目標の詳細を知ることで、その場所に関する将来の攻撃や強奪、調査に備えることができる。犯罪の容疑者のやりとりを密かに聞くことで、次に起きた犯罪で現行犯逮捕したり、犯行に関与した人物の身元を暴いたりすることもできる。あまり几帳面でない人は、偵察を利用して自分が見つけた秘密を利用したり暴露したりすると言って目標を脅迫するかもしれない。
潜入にも強奪と同様に規模を設定するが、その機能は少々異なる。通常、GMは一度に扱うキャラクターの数が少なく、それほど多くの障害を提供する必要がない。また、潜入には常に特定の規模がある。規模には、急速な潜入と長期の潜入の2つがある。
急速/Fast:PCは素早く潜入し、各自の任務に専念する必要がある。この潜入は通常、ゲーム時間で数時間、卓においては10~15分程度しかかからない。この場合、PC1人の場合は1~3個、複数のPCの場合には1人毎に1個の障害が必要となる。3つを超える障害が必要な場合には、代わりに強奪を使用して、全てのキャラクターが関与するようにする。
長期/Long-Term:これは長期的なスパイ活動を対象としたもので、PCに表向きの物語や別の人格を作成する必要がある。複数のセッションで行われるが、通常セッション毎に10分以下を費やす。1つの目標を達成するためにいくつもの障害を準備するのではなく、組織に潜入しようとしたり、目標と友好関係を結んだりしようとしたら2つの障害をPCの前に置くこと。次に、PCが潜入によって何かを得るための1~2個のセッションを提供する。それぞれの障害を突破するために役立つ小さな情報を提供するか、特定の間隔(通常はPCが4~5個の障害を突破した後)に重要な情報を提供する。組織の秘密を最も秘匿度の低いものから高いものへと階層化すること、そうすればPCは段々と組織の最も内側のレベルに近づくようになる。PCが潜入している組織に属しているものは、別の場所でPCに遭遇する可能性がある。その場合、すぐに表の顔をとるか、気づかれないように振る舞うかする必要がある。長期のスパイ活動はいつまでも続く可能性があるが、PCが障害を克服できないことがあるたびに、組織や目標はその真の目的を疑う。重大な失敗1つか失敗3つを経験すると、自分の評判を修復するための並外れた手段を取らない限り、潜入したキャラクターの動機が明らかになる。
強奪の間、そして特に潜入においては、キャラクターは表の顔を装う必要があるかもしれない。この人格に必要なのは、その名前、職業、最近の経歴といった、いくつかの細かな情報だけだ。表の顔の最も重要な要素は一貫性だ。つまり、後で矛盾しないように、PCは細かな点を正確に保つ必要がある。表の顔の人格には、アクセント、癖、衣装の着こなし、そのほかの癖が含まれる場合もある。
別人格は表の顔よりもはるかに複雑で、何ヶ月も何年もかけて作り上げられた、完全に洗練された人格である。潜入者は別人格についての全ての細かな情報を知る必要があり、外面を維持するために、一度に何週間も別人格として生きるかもしれない。長期の潜入には、表の顔ではなく別人格が必要になるかもしれない。
別人格は、テーマ的にはヴィジランテの複数の人格に似ており、長期的なスパイ活動を行おうとする潜入者のプレイヤーは、実際のキャラクターの背景に費やすように別人格の細かな情報に力を注ぐべきだ。表の顔を採用しているキャラクターは、表の顔が知っていると思われる専門分野を偽るために〈はったり〉を使用する。しかし別人格として生活しているキャラクターは、時間をかけてその別人格に関連する実際の技能を取得し、別人格に適した〈職能〉、〈製作〉、〈知識〉の技能ランクを持つ場合もある。
即興の表の顔/Quick Covers:以下に示すのは、キャラクターが自分で潜入する場所に入る理由を説明するための表の顔の例である。プレイヤーが短期間で表の顔を思いつくのに苦労している場合、次の提案を直接、あるいは思いつきとして使用できる。これらは社会的な役割で分類されているが、多くの場合、人格は複数の役割に割り当てられる。
ありふれた人物/Average Person:物乞い、雨風を凌げる場所を探す。部屋係、ホールを掃除するために来る。ネズミ捕り、キーキーという音を聞いた後で雇われた。店主、急な注文の配達。薬草商、訪問販売で湿布薬とチンキ剤を売る。
芸人/Entertainer:雇われ詩人、密かなファンに雇われて曲を演奏しに来る。道化師、戯曲を必要とする貴族を探している。画家、後援者と美しい壁画を作る場所を求めている。大都市の演劇 仕掛け人、次世代のビッグスターを探している。
聖なる訪問者/Holy Visitor:旅司祭、良き言葉を広める。占い師、恐ろしい警告を伝えるためにくる。宗教学者、図書館で研究するために訪問する。
重要な貴族/Important Noble:有名な公爵夫人の子供、鷹狩り大会に参加するために街にやってきた。熟練の騎士、馬上試合で苦労して勝利した後に田舎を訪れた。砂漠の王子のアドバイザー、新しい貿易相手を見つけるために旅をしている。先触れ、主人がもうすぐ到着するという知らせを持ってきた。
法の執行者/Officer of the Law:法廷弁護士、不動産所有者の事業場のライバルの1つを調査している。徴税人、施設の価値を査定している。
裕福な訪問者/Wealthy Visitor:自営業者、自分のために商品を売買するための従業員を探している。快楽主義の社交界の有名人、大きなパーティを開くために地元の人を雇いたいと考えている。無目的の遺産相続者、買う価値のある資産を探している。賭博師、掛け金の高いゲームのためのプレイヤーを探している。
長期的な潜入を行う場合、キャラクターは自分の別人格を維持しやすくするようになるべく努めるべきであり、外見を変えるために変装や魔法を用いるべきではなく、代わりに認識されることのないように比較的匿名であることを利用するべきだ。しかし悪名の高い顔だとその選択肢は取れず、長期的な変装が必要になるかもしれない。癖や衣装の雰囲気、話し方を調整するのは、変装を維持するよりも簡単だ。別人格を維持するために呪文を使うのは極めて危険である。通常、長時間持続する呪文が必要になるが、呪文が長い間続いていると、幻術を見破れる人や魔法の効果を感知できる人にスパイが遭遇する可能性が高くなるからである。