シェリアックスは、内海北岸であるアヴィスタン大陸の南西部に位置する帝国であり、現在内海地域最強の国家の1つであるが、地獄界ヘルのデヴィルの支配を受けている。
3007AR、タルドールの最も西にある植民地としてシェリアックスが創設される。
4081AR、本国とカディーラとの戦争に乗じ、シェリアックの総督 Aspex the Even-Tongued による征服が始まる。イズガーとガルトを支配下におさめ、エイローデンの教会の誘致に成功し、シェリアックスは強国としての運命を歩み始める。その後、南はサルガーヴァ、北はヴァリシア、アルカディア洋を越えてはるかなアルカディア大陸まで、その勢力を急激に広げていった。
4305AR、King Haliad III 、モルスーンとヴァリシアの領有を宣言し拡張戦争を開始。戦争は4410ARまで1世紀にわたって続き、永続戦争 the Everwar と呼ばれる。
4605AR、ガスポダール王 King Gaspodar、エイローデンから栄光の時代が始まるという神託を受ける。
4606AR、守護神であるエイローデンが死亡。“失われた神託の時代”が始まる。その際の天変地異に巻き込まれガスポダール王死亡。空白になった権力を巡り、内戦が始まる。
4632AR、モルスーンが離反。北方のヴァリシアとの連絡が絶たれ、コルヴォーサ市も独立都市国家となる。
4640AR、デヴィルと手を結んだスルーン家 House Thrune の女王 Abrogail I が勝利を収め、シェリアックスは悪魔の国となる。悪魔の勝利を影から支えたニダルは属国から対等の同盟国となる。国体の変化を嫌ったガルト、アンドーラン、サルガーヴァ、アルカディア大陸の Anchor's End が離反する。しかし、国土の半分近くを失ったとはいえ、シェリアックスは未だゴラリオン最大の国家の1つである。
現在の支配者はスルーン家の支配が始まってから6代目の女王アブロゲイル2世 Queen Abrogail II である。初代女王の孫である彼女はわがままで甘やかされた少女だが、この数十年のスルーン家で最も鋭敏で剣呑な政治的闘士であり、先任者が暗殺死と不審死ばかり遂げてきたこの6代の中では、すでにその治世は2番目に長い。摂政は彼女の祖母も補佐してきたピット・フィーンドのゴルソクレク将軍 General Gorthoklek。普段は人間の姿をしているが、圧倒的な悪と力のオーラを放っている。彼の力に影響されないのは女王ただ1人であり、女王に助言を与えはするが、この国の政治の方向を決めているのは女王その人である。彼女の舵取りにより、この国は再び過去の栄光を取り戻そうとしているように見える。女王の教師として、アスモデウスからエリニュスのコンテッサ・ルリラーサ Contessa Lrilatha が派遣されている。[1][2]
帝都エゴリアン Egorian の政府では、デヴィルと従属的な地位にいる人間が共に働いている。
ヘルナイト Hellknights は法の執行機関である。公的機関ではなく、女王の特許状によって権利と義務と責任を定められている団体だが、国中に城砦を置き、犯罪者を摘発している。多くの者は悪属性ではないが、この組織に長く身を置いて秩序の敵と戦ううちに、冷酷な精神を持つようになる者が多い。最も知られている伝説によれば、最初のヘルナイトはサーレンレイに仕える騎士であったというが、初代女王Abrogail I とフィーンドの同盟者を討つべく突撃し、女王の面前に達した時、その地獄の美しさに打たれて剣を捧げてしまったという。ただし最初のヘルナイトが設立されたのはエイローデンの死の前であり、この物語は事実ではないらしい。
異端審問官 Inquisitors はこの国の秘密警察である。アスモデウス教会の1部門であり、不浄なる秩序にはびこる病毒を駆除すべく国中に密偵網を張り巡らせている。多くの者は彼らに関わりあうことを恐れ、彼らの鉄の仮面と黒いローブを見ると顔を伏せる。
シェリアックスの住民の多くは人間(シェリアックス人)である。住人たちのほとんどは実際にデヴィルを見たことがない(あるいは自分が見たものがデヴィルであると知らない)。しかし、アスモデウス律法 the Asmodean Disciplines によって、生活の隅々にまで複雑な規制のタペストリーを張り巡らせられている。
社会のピラミッドの最下層は奴隷である。シェリアックスの巨大な奴隷市場には債務者、犯罪者、単に運が悪かった者、権利剥奪された貴族などが売られている。特にこの階層で苦しめられているのはハーフリングであり、痩せっぽち the slick と呼ばれ蔑まれている。その上は農奴、労働者、職人、商人、富豪、貴族と続く。貴族層は、エイローデンの時代から続いている旧貴族と、スルーン家によって取り立てられ悪魔を熱烈に信仰する新貴族に分かれる。これら全ての上にアスモデウス教会が立ち、ピラミッドの頂点にはスルーン家が立つ。シェリアックスの人々は非常に野心的であり、今の境遇から上の階層へ抜け出そうとあがいている。このピラミッドの外側にいるのは、独自の階梯を持つヘルナイト、異端審問官や、さまざまな地獄の修道会のモンクたちである。[2]
アスピス財団the Aspis Consortium はかつて旧都ウエストクラウンで設立された商業シンジケートであり、アヴィスタンとガルーンド北部で国境にとらわれずに活動している。外部の者や雇われているだけの者のほとんどは、財団を他の商人団体と同様のものだと考えているが、実際は密輸や奴隷貿易など不法な活動から、競争相手の船を沈めたり疫病や戦争を起こして市場のコントロールすることまで辞さない、利益を上げるためなら何でも行う集団である。[3]
ベルフラワー・ネットワーク Bellflower Network:シェリアックスの奴隷にされている同胞を解放することを目的とするハーフリングの秘密組織。自由を求める仲間を密かに国外へ脱出させる。リーダーは「農夫」Farmer としてのみ知られ、その正体や所在は謎につつまれている。
かつては the Starfall Doctrine という、いつかエイローデンが物質界に帰還して王位につき、その統治によってシェリアックスに平和と正義をもたらすだろうという教えが広く信じられてきた。しかし訪れたものはエイローデンの突然の死だった。
現在はアスモデウス教が国教である。一般人はアスモデウスの聖日を祝い、教会に通うが、内心では他の神を信奉するものが多い。新貴族たちは出世の手段として熱心に宗教活動に傾倒する。
他の神に対しては意外なほど寛大であり、アスモデウスと体制に反対する言論をせず、聖職者の登録をするのなら活動が認められている。アーバダー、エラスティルは田舎の町村では一般的で、もともとシェリアックスの神であるアイオーメディは非常に人気があり、ヘルナイトの中に多くの信者を擁する。サーレンレイの信者は稀だが、アスモデウスと共にロヴァググと戦った仲であるため歓迎を受ける。
ただし、混沌属性の神、デーモン、アスモデウス以外のデヴィルに対する信仰は死を以って禁じられている。[2]
エゴリアン Egorian:“茨の街”と呼ばれるシェリアックスの首都。アディヴィアン河 the Adivian River の源流であるソロウ湖 Lake Sorrow の湖畔にある。かつては白い薔薇を特徴とする“薔薇の街”だったが、エイローデンの死と共にそれは黒く染まり、今の通り名で呼ばれるようになった。伝統的なシェリアックス都市である旧区と、スルーン家の完璧な都市計画によって改築された新区にはっきりと分かれている。Egorian Academy は魔法のあらゆる分野で優れた研究をしていることで知られるが、最も有名なのはデヴィル召喚に関するものである。
ブラッスルワーク Brastlewark:東部国境近くにあるアヴィスタン(恐らく全世界でも)最大のノーム居住地。多くの錬金術師、ウィザード、バード、芸術家が住む。自称ノーム王にしてアブロゲイル2世の恥を知らない家臣ドラム・ソーンフィドル Drum Thornfiddle が支配者。
コレンティン Corentyn:エイローデンのアーチのたもとにある要塞都市。ガルーンドからのアーチを通じての侵攻全てを退けてきた。エイローデン海峡を守る海軍の拠点でもある。
エイローデンのアーチ Arch of Aroden:アルカディア洋に続く内海の西出口をまたがって掛かっている長さ15マイルに及ぶ巨大なアーチ橋。コレンティンとラハドゥームを繋いでいる。現在はおよそ1/3は破損しており、陸上輸送の手段としては使用できない。
キンターゴ Kintargo:北西部のユルビリス河の河口にある港湾都市。ヴァリシアや西の海に向かう船のほとんどが停泊するため、ウエストクラウンに次ぐ国際都市であり、外来者を歓迎する。そのため当局からの逃亡者や反政府運動の闘士がよく潜伏している。
オステソ Ostenso:東部にある軍港都市。内海最大のシェリアックス海軍の拠点。およそ100年前に没したアスピス財団の創設者“守銭奴”アレクサイン Alexayn the Miser の大霊廟がある。彼は自分の業績と名前が永遠に残るように、その財産の半分を費やして故郷の街に多くの記念碑を残し、名高い美術品のコレクションと共に永遠の眠りについた。しかし、墓荒らしが彼の財産を持ち去ろうとしたため、死んでいてもなお強欲であった彼はミイラとなって蘇った。自分がほとんど忘れ去られていることを知った彼は、自分の行いを思い出させ、今度こそ名を永遠に世界に残す―必要ならば悪名であっても―ために活動を開始している。[6]
ぺザックPezzack:西部のアルカディア洋に面した大きな町。反政府運動の拠点で、数年にわたって包囲され世界のほかの部分から切り離されている。東の丘陵地帯には深いふちに囲まれて近づくこともできない奇妙な岩棚“悪魔の止まり木” Devil's Perch があり、有翼の悪魔がうろついているという噂が絶えない。
ウエストクラウン Westcrown:アディヴィアン河の河口に位置するシェリアックスのかつての首都。朽ちつつある邸宅に住む追放された貴族たちが街の覇権を争い、夜になると街路にニダルから輸入されたシャドウ・ビーストがうろついて反乱者候補たちを餌食にする。ここを拠点とする Tyrax という男をリーダーとする抵抗組織は、内戦が公式に終結して70年たった今もかつての王家に忠誠を誓う王党派である。彼らはウエストクラウン市民のいくらかの共感とわずかな支援によって生きのびているが、それは主義への共鳴というよりは哀れみによるものである。ラハドゥームに亡命したという親友から時折支援を受けている。
バロー森 Barrowood:中部の西に広がる大森林。この森の奥深くでアブロゲイル1世は悪魔と契約したという。
ウィスパー森 Whisper Wood:中部の東に広がる大森林。ヘルにつながる入り口があると噂されている。グリーン・ドラゴン Athervox の天文台があり、かつてスルーン家は彼女とその平穏を冒さないことと引き換えに人間の天文学者を教育するという取引をしたが、その結果 Athervox は研究成果を持ち逃げされただけだった。特にまだ報復はしていないが、彼女がこのことを忘れたわけではない。中心部は巨大な蟲や奇怪な動植物がすむ密生した原生林 Scar Thicket で、その中心部は巨大な菌類とヴェジピグミーの領域である。そこの木々の根の間にある細い地割れを降りていくと、ダークランドナル・ヴォスのミッドナイト・ジャングルに着く。[7]
メナドール山脈 Menador Mountains:北部から西部にかけて走る大山脈。その西側の丘陵地帯には、この国で最も自由な魂を持つ人々が住み、悪魔信奉者たちへの反乱を続けている。この地の支配権を持つ Paracount Marcellus Thurivan は叛徒に対する最終的解決を考えている。山脈の北部はメナドール山脈に生きる狩猟民たちの地である。厳しい環境に生きる彼らは鍛錬と規律を重んじる。またこの地の鉱山では多くの奴隷が使役されている。
[1] Erik Mona et al.(2008). Campaign Setting, p. 136. Paizo Publishing, LLC. ISBN 978-1-60125-112-1
[2] Jonathan H. Keith et al.(2008). Empire of Devils, p. 4. Paizo Publishing, LLC. ISBN 978-1-60125-191-4
[3] Crystal Frasier et al.(2010). Faction Guide, p. 8. Paizo Publishing, LLC. ISBN 978-1-60125-221-0
[4] James Jacobs et al.(2011). The Inner Sea World Guide, p. 150. Paizo Publishing, LLC. ISBN 978-1-60125-169-2
[5]Mike McArtor(2008). Dragon Revisited, p.44. Paizo Publishing, LLC. ISBN 978-1-60125-165-7
[6] James Jacobs et al.(2010). Classic Horrors Revisited, p. 43. Paizo Publishing, LLC. ISBN 978-1-60125-202-9
[7]:James Jacobs and Greg A. Vaughan.(2008). Into the Darklands, Paizo Publishing, LLC. ISBN 978-1-60125-140-4
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